中林純子のホームページ
| 私は、男ながらスカートを着けることが大好きな人間です。スカートだけでなく、ペチコートやストッキング、ハイヒールその他女っぽいものも大好きです。残念ながら「かわいさ」とはほど遠い容姿の持ち主で、決して若くもありません。脛毛や髭剃りあとが濃く、身長も170センチ以上、髪型もいかにもサラリーマン風で、女装などほんとはまったく似合わない中年男です。それでも、私はスカートが大好きです。あの無防備感やたよりなさが大好きです。なので、無理してでもスカートを着け、時には夜の町をさまよっています。スカート姿のいくつかは、これまでにも<スカート万歳党>に掲載していただいて来ました。 このサイトは、投稿やチャット機能をもたない単純なイメージ画廊ですが、ここには、<スカート万歳党>に掲載していただいているもの以外の写真を補足的に掲載して、皆様に見ていただければと思います。補足的というか、どちらかというとエロティックなイメージです。今はまだ作成途中ですが、じょじょに完成させて行きますので、どうぞ存分にお楽しみください。ただ、じょじょにと言っても、これから素材を準備してここに掲載するための加工を終えるのにはだいぶかかると思います。2002年の8月ころに作り出して、今頃になって何とか公開までこぎつけたくらいのものです。どうか気長におつきあいいただければ幸いです。 ご意見、ご要望がございましたら、電子メールにて純子まで。 【参考サイト】スカート万歳党 2003年12月2日 当初は簡単な画廊サイトとして出発しましたが、お越しくださった方々が画廊をご覧になっての感想を残して行っていただけるよう、あらたにゲストブックを開設いたしました(これも無料バージョンですが)。率直なご感想をお聞かせいただければ幸いに存じます。どうか末永く、本サイトをお愉しみくださいますよう、よろしくお願いいたします。 |
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| このギャラリーについて 純子がスカート女装のギャラリーを始めたのは、スカート姿を多くの方々に見て頂きたかったから...部屋の中で一人きりスカート姿に変身し、そのスカートを見下ろしたり鏡に映したりするだけでは満足できなくなったから...なぜ?...きっと、見られることが人間にとって本能的な快感だから...特に女性の心を持った人間にとって...(女の子は新しいお洋服を着たら、親兄弟や友達に、ねえ、見て見て!って軽い気持ちで呼びかけます)...純子もきっとそれと同じ...自分が清楚におしゃれできたって思う服装を見て頂きたいから、このギャラリーを始めましたし、10年も続けてきました...それはそのとおりです...でも、純子には他にも理由があります。 純子は生来的に被虐趣味...マゾヒズムの傾向があって、捕らえられるとか、拷問にかけられるとか、辱められるとか、の行為が自分の身体に加えられることを夢想もし、望んでもいます。強姦や輪姦...純子のからだは男性なので、通常の意味で「犯される」ことはできないからだです(肛門はありますが...)。でも、女性が犯される時のように、純子も男性から暴力を受け、屈服させられ、恥ずかしいことをされ、からだを嬲られ、言葉でも辱められたい...そんなマゾヒスティックな純子がこのギャラリーを続けているのは、見られることが、いわば視姦されることにつながり、メールや掲示板でのやりとりが、言葉で辱められることにつながるから...それは、一人で部屋の中でスカート姿で暮らしていても、絶対に味わうことのできない大きな快感です... そして、さらに、純子はマゾであるとともに、マゾの気持ちが分かるからサドにもなれるのです。自分の恥ずかしいスカート姿を晒しものにする...そういう行為がサディスティックな純子の情感を満たしてくれます。と同時に、同じ純子が、「ああ...スカート姿を晒されるんだわ...」って思うことで、マゾヒスティックな情感も満たされる...変態の倒錯した性欲というか性的嗜好というか、そういう二つの顔を持つ純子だから、このギャラリーに同じような写真や動画を次々に展示することそのものが、このギャラリーの目的となってしまいました...うんざりさせられる多量の画像と映像は、その全部を見ていただくため、というよりは、「この馬鹿、なにやってんだ?」と思って頂くためのもの...一枚でも純子のスカート姿をご覧頂ければ、純子はそれだけでとてもうれしい...ですので、どうぞギャラリーのどこでも、お好きなところだけご覧になって下さいませ... [2013.05.02] |
| 純子の名前について |
| 私がスカート姿になった時の名前を純子にしたのは、もともと純子という名前がいかにも女性らしくて好きだったこともあります(身内、親戚、友人、知人にこの名前の女性はいません)が、決定的だったのは、西村寿行作のバイオレンス小説「牙城を撃て」に出てくる同名の女性の運命でした。ずっと昔、人気のない最終?電車の中で拾ったスポーツ新聞に連載されていたその一節を何気なく読んだ時、私は興奮して、あやうくズボンの中を濡らしてしまうところでした。清冽な名前と苛酷な情況がいかにもぴたりと重なり合ったから... |
![]() 夫、瀬川均二が南アルプスで行方を絶った時、妻の瀬川純子は何か事件の 臭いを感じて、単身、同じ山に向かいます。そこでは、巨大な暴力集団が麻薬を 栽培しており、迷い込んだ均二たちやOLたち4人の男女を監禁していました。純子も 彼らに捕らわれてしまいます。男たちは収穫のための奴隷として、女たちは性奴隷として 働かされる運命に。収穫とともに彼らは用なしでした。そこに集団を追う刑事が現れます。 |
| 西村寿行作 「牙城を撃て」角川文庫版(昭和60年6月30日19版)からの抜粋 |
| 瀬川と黒井の遭難が確定的だとなったのは、八月八日であった。馬ノ背ヒュッテを出たのが七月二十六日で、それ以来どこにも連絡がなく、目撃者もなかった。遭難をしたとみるほかない。 面妖なことがあった。同じような遭難者がまだほかにもいたのだ。七月の二十日すぎに、東京のOLが二人、やはり同じコースを辿っているうちに行方を絶っていた。家人が捜索隊を組織して足取りを追ったが、不明であった。 厳しい冬山とちがって、夏の山である。こんなふうに二組もつづいて、行方を絶つというのは、何かあやしかった。 ――夫は生きている。 せがわじゅんこ 瀬川純子は、そう自分にいいきかせた。 ... 純子は、登山の準備をはじめた。 純子には夫が死んだとは思えなかった。学生時代から登山には慣れていたし、装備も重装備をして出かけたのだ。めったなことで遭難したりはしない。もし何か突発事故が起きたとしても、自力で脱出できる夫であった。それも一人ではない。パートナーの黒井も登山には十分な経験を持っているのだ。 何かが起きた――その何かを、純子は事故だとはとらなかった。事故ではなくて、事件ではあるまいかと思った。他にも女二人が行方不明になっているのだ。きびすを接するようにして四人もの人間が忽然と足跡を絶つのは、ただごととは思えない。 八月十三日、純子は重装備して、新宿駅から中央線に乗った。 夫の瀬川は林野庁に勤めていた。業務部監査課員である。純子も同じ林野庁に勤めており、登山の会に入ってそこで知り合ったのだった。結婚後、純子は勤めを辞めた。まだ新婚気分が抜け切らない。一年が過ぎたばかりだ。 ――生きていてね。 そう、純子は願った。 |
![]() しかし一人で敵中に飛び込んだ刑事の三影竜昭も囚われの身となり、奴隷として虐待されながら、 収穫のための奴隷労働に従事させられることになります。そこで、三影は瀬川たちと知り合って、この麻薬 栽培基地での奴隷生活の実態を聞かされるのでした。そしてやはり一人で捜索に来た妻純子も捕らわれの 身となり、言語を絶する陵辱を受けていることも...瀬川は、妻が目の前で性奴隷として輪姦される辱めを 受けていても、何もできずにいるのでした。やがて、三影は奴隷労働の中で、純子本人とも知り合うのでした。 |
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瀬川は喋り疲れたように、ことばを切った。 「ほかに、何があるのだね」 「大麻ですよ」 黒井が受けた。黒井の声にも力がない。 「インド大麻を大量に栽培しているんです」 「大麻か...」 事情が、三影にも呑み込めた。 「何千本という大麻を植えています。大麻やケシはどんな気候でも育つそうで、ぼくたちはその収穫に使われているんです」 「君たちは、迷い込んだのか」 「そうです」 「女たちは」 「いまの二人は、やはり迷い込んだのです」 「あとの一人は」 「...」 黒井は黙った。 「ぼくの、妻の純子です」 瀬川が答えた。 「ぼくたちが遭難したとわかって、一人で捜索に来て、つかまったのです。――かわいそうに、男たちの性の奴隷です。朝から晩まで、ロープで縛られて...」 瀬川は絶句した。 いうことばが、三影にはなかった。若妻が縛られ、男たちの性玩具になっているのを、瀬川にはどうするすべもない。手錠をかけられ、酷使されて、岩穴につながれている。 ... 全裸に近い三人の女の腰をロープで結え、四人の男が手綱を握っていた。吉良の姿はなかった。引き返したようだった。 「さあ、仕事だ。奴隷ども」 江波が怒鳴った。 手錠を前にかけかえられ、首のロープを引かれて三人は洞穴を出た。 追い立てられて、歩いた。 五十メートルほどのところに、大麻畠があった。 「停まれ」 江波が命令した。 「どうかね、三影君。ここに何千本の大麻が植えられていると思う?教えてやろうか。大麻だけで、金額にすれば約一億円だ。ケシと合計でなら、年間で数億円だ。厚生省の麻薬取締官も、こんな栽培地があるとはご存じないだろう。さあ、働いてもらおうか。働きがよければ、君にも、殺す前にマリファナを喫わせてやろうじゃないか」 「ご親切だな」 「君にはたっぷり礼をしないといかんのでな」 江波は笑った。 三影は大麻畠に入った。畠といっても、林を伐り拓いただけのものだった。広い土地に何千本ともしれない大麻が夏の陽を吸って丈高く生長していた。ほとんど密集している。うまいやりかただと思った。これでは上空から飛行機で調べても、森林の中の雑草地だとしかみえない。 作業にとりかかった。背丈ほどの大麻は花序の先に果穂をつけている。その果穂と上辺部の葉をむしり取るのが作業だった。 三影の側に女が配置された。瀬川の妻だという女だった。 「わたし純子です」 女は果穂を摘みながら、まわりに聞こえない低い声で自分を紹介した。 |
![]() 三影は純子の口から、彼女が受けた、そして受けている言語を絶する陵辱を語って聞かされます。 夫の前で繰り返し繰り返し輪姦されたこと...組織の男たちに犯され続けた純子のからだを、夫の 瀬川も強制されて犯したこと、そして、遂には瀬川の友人の黒井までもが純子のからだを抱いたこと。 さらに、三影の目の前で、全裸で腰にロープを結わえられた純子が辱められるのです。性奴隷として、 男に進んで奉仕する純子の屈辱と懊悩...そんな中でも感じてしまう女のからだの無残な哀しさ... |
| 「隙をみて、拳銃を奪えないか。そうすれば、全員が救かる」 「とても」 かすかに首を振った。ほおが白いのが、痛々しい。 「考えてみてくれないか。君の夫も、殺されるのだ」 「もう、夫ではありません」 「どういうことかね、それは」 「わたし、瀬川の目の前で男たちにつぎつぎに犯されたんです。それも何回も。夫は眼を閉じてぶるぶるふるえていました。あげくに、夫に、わたしを抱けというのです。夫は抱きました。夫の次は黒井さんです。もちろん、強制されての行為でした。でも、夫は昂っていました。わたしも、夫の前で男たちに犯されて体がもだえたのです。昂った夫に抱かれながら、もうお互いにどうにもならない人間同士になったことを悟ったのです。わたしたち女三人は、もう人間ではないのです。けだものの牝なのです」 「...」 ... 五人の男たちは乾魚と缶詰で飯を食っていた。三人の女は同じ食卓についていた。 「三影」 食事の終わった江波が、椅子を回して三影をみた。 「女を抱きたいか」 純子のロープを手繰って引き寄せ、膝に抱いた。純子はパンティを脱がされ、無言で江波の膝に乗っている。 「いや、けっこうだ」 「おまえたちは、どうだ」 江波は薄笑いを浮かべて瀬川と黒井をみた。二人は答えなかった。 「遠慮深い奴隷たちだぜ」 町田が笑った。町田ともう一人の笠間と呼ばれる男が、それぞれ女を抱えた。市岡はマッチの軸で歯を突ついている。 「さて、マリファナでもやるか」 市岡がマリファナタバコを持ち出し、壁際に腰を下ろした。 「おれたちも、やるか」 町田が立ち、笠間も立った。女を抱いてそれぞれが壁に背をもたせかけ、マリファナタバコの回し呑みをはじめた。二人の素裸の女も喫った。 「あんたは、マリファナが、こわいのか」 三影は、江波に声をかけた。 「おれは、羊飼いだよ」 「羊飼い?」 「そうさ。君は、おれも仲間に加われば隙ができると思っているのだろうが、それほどバカではないんでね。羊飼いというのは、マリファナパーティで一人だけ喫まない指導者がいる、そのことをいうのだ」 「用心深いな」 「あたりまえだ。それに、女がいれば、あんなものはいらないさ」 江波は純子を下におろし、自分の股の間に純子の顔を引き寄せた。ズボンは足元にずらしていた。やがて、股間に純子の顔を当てがった。三影は、裸で膝を突いた純子が、江波のものを口に含んで上下運動を繰り返す動きを見ていた。 |
![]() 組織の男たちの暴虐は際限なくエスカレートし、挙句の果てに、男同士、女同士を鉄棒で殺しあうように 強制します。三影は純子の夫である瀬川を打ち殺し、純子は郁子という女を鉄棒で突き殺すという運命 でした。生きるために人を殺した男女に残されたのは、殺し合いを強制した非情な組織への復讐のみでした。 しかし、その前に、一人残された女奴隷の純子には陰惨な運命が待ち受けていました。他の二人の女が「受け 持っていた分だけ、純子の体が使われ」ることになったからです。マリファナと男性器の奴隷となって行く純子です。 |
| 「わたしは、闘うわ」 純子が手錠をはめられた手で、鉄棒を握った。 「鉄棒を拾いなさいよ。あの男たちは、女だからって容赦はしないわ。こんなふうにして腰紐を引きずられて奴隷生活するのは、もうたくさんだわ。だれか、わたしを殺してよ。恨まないわ。そのかわり、生き残った一人は、あの三影さんと協力して全員の仇を討つのよ。さあ、いらっしゃい。いっとくけど、わたしが生き残れば、あの男たちを殺すためににだけ、生きるわ」 純子は鉄棒を持って前に出た。恐怖感はなかった。夫が殴り殺されるのをみても、それほどの衝撃はなかった。どちらにせよ、生きて帰れないことはわかっていた。ここに連れ込まれたときから、すでに死んだも同然であった。恥辱感がなくなり、けもの同様に這い回って男たちに奉仕させられても、もう心に痛みは感じなかった。悲むべき心は男たちにもぎ取られてなかった。人間であろうとするなら、連れ込まれたその日に舌を噛み切って死んでいなければならない。 「わたしが、相手するわ」 郁子が鉄棒を握った。血と頭髪のこびりついた、赤錆びた鉄棒だった。郁子はいきなりその鉄棒を振り回した。 ... 陽が高いうちから、マリファナパーティがはじまった。 純子は腰にロープを結えられて、引き据えられていた。 「おれが最初に抱く」 江波がロープを引いて、純子を引き寄せた。めずらしく、江波はマリファナを吸っていた。 三人の男は異議をとなえなかった。マリファナを吸って陶然としている。 純子は江波の膝に抱えられていた。裸にされていた。だれが先に抱こうと、同じことであった。郁子と沙波が受け持っていた分だけ、純子の体が使われるのだ。 「おまえも、喫いたいか」 江波はタバコを突きつけた。 純子はそのタバコを黙って喫った。マリファナでもなんでも、記憶を断ち切ることができるのなら毒薬でも口にしたかった。 |
![]() 三影は純子の協力を得て、麻薬栽培基地からの脱出に成功し、あらためて復讐を実行するのです。 三影は、純子が死を覚悟の過酷な状況下であえて生きるために闘いを挑んだその勇気に感服しています。 一方、純子は復讐に燃える三影に孤高の男を感じ取って、妻として欲しいと懇願します。三影の「目の前で 無残に犯されつづけた汚辱にまみれた」純子を三影は愛しく思い、妻とすることを諒とします。普通の性行為では 満たされないからだになってしまった二人でしたが、これからは力を合わせて麻薬栽培組織への復讐を誓うのでした。 |
| 闘いの鉄棒を、たとえ死ぬ気であろうと真っ先に握った純子の精神力に、三影は心をうたれていた。 「わたし、夫を殺したあなたを、許します」 「ありがとう」 「夫の最期は、見苦しかったわ...」 「そんなことはない。立派だったと、おれは思う。君も知ってのように、おれは追ってきた犯人の小便を飲んでも、死ぬことができなかった。そのときの君の凝視していた表情を、忘れることができない」 「三影さん――」 純子は、足を停めた。 「なんだね」 「報復に成功すれば、どんなに短い期間でもけっこうですから、わたしを妻にしていただけませんか。わたしは、あなたの目の前で無残に犯されつづけた汚辱にまみれた女です。でも...」 純子は絶句した。 「ありがとう。喜んで妻になっていただきます。ただし、これから何人の男を殺すことになるかわからない。すべてを殺し尽くしたあげくに、どれだけ生きられるかとなると、心細いかぎりですがね」 「それでも、いいです」 純子は三影の胸にすがりついた。 ... 「今夜は、あなただけ愉しんでいただきたいの。そう決めているのです。わたしは耐えています。だから、ご自由になさって」 閉じた瞼から泪がにじみ出ていた。 傷の深さを、三影は知った。 「おれも、よそう」 三影は立った。 「君をここで抱かなくても愛は変わらない。こっちへきなさい」 純子を抱き起こして浴衣を着せ、テーブルに着かせた。 「おれは明朝、出発する。君は残ったほうがよくはないか」 「いいえ、行きます」 「生命を落とすことに、なるかもしれない」 「覚悟をしています」 「撃ち合いになり、おれが死ねば、君はまたやつらの奴隷にならねばならない。その覚悟ができているのかね」 「ええ」 純子はうなずいた。 「あなたが死ねば、わたしは舌を噛みます」 「そうか...」 三影は二、三度、うなずいてみせた。 |
![]() 結局、三影と純子は、南アルプスの麻薬栽培施設の破壊に成功しますが、ヘリが飛来して、 組織壊滅には到りませんでした。からくも施設から脱出した二人は、ヘリの行方を追い求めます。 純子はその名前のように楚々として純粋、男勝りの清冽さと高潔さ、そして勇気を併せ持つ一方、 弱い女としての...男の慰み物となる無力な女の...エロチックな無残さを持っています。それは、 強制された性行為の中でどうしようもなく感じてしまい、行かされてしまう女のからだの無残さだけでなく、 犯され辱められることに怯える弱々しい女としての存在という無残さ...たとえば、ヘリの行き先を知るため 一人スーツ姿で、現場に飛来したヘリを所有する悪徳会社の倉庫に乗り込む純子の以下の描写をどうぞ... |
| 気乗りはしなかった。しかし、こんな場合、女のほうが成功率が高いことはわかっていた。純子は充分に美しい。バストも高く、ヒップも充分に張っている。手を上げて停まらない車はなかろう。 薄化粧をして清楚なスーツを着た姿には、夏の屈辱は影すらもとどめていない。あれほどの性の酷使も、純子の肌には痕跡をとどめることはなかった。よってたかって男たちが液体を流し込んだ汚れは、ただ凝脂の白い肌を滑っただけのように思えた。三影はその強靭さというか、女の浄化力のたくましさにふっと本能的な嫉妬さえおぼえることがあった。心の汚れることはあっても、女の体は永遠に男の手で汚すことができないのではあるまいかと思った。 だが、それだけに、二度と純子を敵の手に渡したくはなかった。豊かな白い体を自在に弄ぶ男たちのことを思うと、心の中をギラッと憤怒が走るのだった。 関東航空のヘリは江波と町田を救出し、数億円の麻薬を運び去った。機体を三影に目撃されていることは承知だ。追跡してくることも覚悟している。どんな陥穽が待ち受けているともわからない危険な場所に純子をやることは、気が重かった。 純子は三影と別れて、一人でヘリポートに入った。 足取りは軽いが、内心にはおびえがある。ふたたびつかまって奴隷生活を強いられることになるかもしれぬと思うと、神経がささくれだつ。しかし、埋立地とはいえ、ここは東京都内であった。それに昼間だ。三影が遠くから監視もしていてくれる。まさか、いきなり、ということはないはずだった。 スレート屋根は倉庫だった。倉庫の端に簡素な事務所がある。三人の男がいた。草を刈り取った広場にヘリが一機ある。強い陽射しにヘリも陽炎に包まれて浮き上がってみえる。 純子はヘリを凝視していた。足が停まっているのに気がつかなかった。ヘリに見覚えがある。... ... 「なにを、探しているのかね」 背後から声をかけられて、純子は振り向いた。三十前後の、プロレスラーのような男が立っていた。人相がよくない。剥き出した腕が毛だらけだ。 「べつに、あのう・・・」 男の目にみつめられて、純子は体を竦めた。細い目が猜疑深い光をたたえていた。いまにも掴み上げられてどこかへ運ばれそうなおびえが走った。 「事務所へ、どうぞ」 男は足を開いて、顎で建物を指した。自分は動かない。しかたなく、純子は歩いた。男が後からついてくる。おびえることはないのだと純子は自分にいいきかせた。三人の男が麻薬栽培の一味だとしても、純子は顔を見られているわけではないのだ。それに、三影が見張っている。 そうは自分にいいきかしても、いまにも足はふるえだしそうだった。理性はどもかく、体が奴隷生活のおぞましさをおぼえこんでいて、早くもここの三人の男に虐げられる幻影を生んでいた。 押し込まれるようにして、事務所に入った。古いスチール机が二つに、椅子が五つほどある。ガラんとしていた。置き捨てられたような感じがただよっていた。 「これはこれは――」 無精髭をまばらに生やした、ひどく太った男が大仰に立って迎えた。 「はきだめに鶴ですな」 ランニングシャツの腹が突き出ている。 もう一人はYシャツにネクタイを締めていた。神経質そうな、顎の尖った男だった。黙って純子をみた目付きが、暗い。 「あのう、わたし、ここで弟と落ち合うことになっているのです。弟がヘリをチャーターしたいというものですから・・・」 壊れかけた椅子に腰をかけさせられた純子は、すこしふるえを帯びた声でいった。最初の男と神経質そうな男が、脚と腰に無言の視線を向けている。その視線から蟻走感に似たむずがゆさが伝わって背筋を這った。 この男たちは、何かの事情で自分のことを知っているのではないのか――。 「乗せてやるぜ、これからよ」 レスラーに似た男の口調が、ガラリと変わった。 「待った」 ネクタイの男が冷たい声を出した。 「だれに、ここをきいたのかね。われわれの会社は広告などやっておらんのだ」 「だれにって、弟にです」 おちつけ―― 「何をしている、弟さんだね」 男の暗い目が、心の奥底に忍び込んでくるような気がした。 「運送業です」 「どこで」 「し、しんじゅく、です」 はっきり声がふるえる。男たちが何かを疑っていることはまちがいなかった。 ゆっくり、皮膚から血が引いた。 「新宿で、運送業か・・・」 男は、低い声でつぶやいた。 「わたし、帰ります。また出なおして・・・」 腰を上げたその前に、レスラーが立った。肉塊が盛り上がっている。 「あわてなくても、いいだろう。弟やらがくるまで、おれがヘリでそのへんを見物させてやろうじゃないか」 汗臭いにおいが顔の前に拡がった。 悲鳴が出かかったのを、かろうじて純子は抑えた。まわりは夏草の繁る広大な荒れ地である。ここで何が起きても、だれにもわからせずに処理できる。三人の男はそのことを心得ていた。ハンターの前に跳び出した野兎と同じだった。ただで帰しそうにないことは、三人の目をみればわかる。乳房と、腰と、脚に刺すような視線が落ちていた。悲鳴を上げれば、あっという間に口を押さえられ、ねじ伏せられる。 そうなったところへ仮に三影が悲鳴をきいて駆けつけたとしても、三対一である。三影に勝ち目はない。それも、相手はたdの男たちではなかった。麻薬を栽培していた暴力団の一味であることは、このぶきみさのただよう気配で明らかだ。 足だけでなく、体がふるえた。軽卒を悔いたが、おそい。倉庫に連れ込まれれば、もうそれっきりだ。 「いいえ、わたし、帰らせて...」 毛だらけの腕が、肩を掴んだ。 「こっちへ、来な」 男に引き寄せられた。事務所と倉庫をつなくドアがある。そこに引きずられた。鉄の腕を思わせる固さだった。肩の骨にひびが入りそうな感じがした。 体中の血が引いて、引いたあとに絶望感が衝き上げていた。素裸に近い体にロープを結えられ、半月あまり四人の男の奴隷で暮らした屈辱が脳裏を走って消えた。同じことが、これから起ころうとしている。違いは山中と倉庫だけだ。いや、ここはもっと悪い魔窟だ。倉庫に連れ込まれて三人に交替で犯される。犯されたあと、男たちは後難をおそれてあっさり始末するにちがいない。残暑に閉じ込められた、荒れ果てた懈怠な部屋の空気が、そのことを物語っていた。 「許して――許してください」 純子は引きずられながら、床に腰を落とした。体を染め尽くしたおびえの中に、どうしようもない不潔感のようなものを自身の体に、心に感じた。なぜ、こうも自分はあっさりと男たちの玩弄物にされてしまうのか。ほかの女だったら、こうはならないのではあるまいか。男たちに獣欲を起こさせ、それをすぐ行動に移させる何か不潔なものが自分にはあるのではなかろうか――純子は、泣きたかった。 「こわがることはねえぜ。だいじにしてやるからよ」 男の声は、ゆがみきって、かすれていた。純子は腕をとられて、軽々と引き起こされた。純子はあらがった。男を突き放そうとした。それがかえって刺激を与えたことになった。男は左手で肩を掴み、右腕を股間に入れてきた。掬い上げられるように体が浮いた。汗にまみれた男のシャツに顔が押しつけられた。右腕は股間を締めつけていた。 狂ったような熱暑が部屋にこもっていた。 どこか遠いかなたで船のドラの鳴る音がきこえた。 純子は観念した。股間を締めつけている腕は万力のような力があって、身動きができない。悲鳴を上げれば潰されそうなおびえがあった。男はそのためにそんな抱きかたをしたのだとわかった。 それに、悲鳴を上げたところで、三影にきこえるわけはない。 純子は泣いた。泣いて許してもらえるわけではなかった。もう逃れようのないことはわかっていた。諦めが出て、その諦めの奥に自分への不憫さがあった。 ... 「おれが、先だぜ」 男は、かすれた声に怒気を含めていた。 男二人は黙って立っていた。 「消えちまいなよ、みっともねえ。それとも、見物しようってのかい」 男は二人にねばい声を投げておいて、これみよがしに純子を床に押し倒した。純子は泣き声をおさめていた。また、けものの牝に戻るのだと思った。三人の男はけものの牡であった。三人とも凶暴な昂ぶりを秘めている。どんな事態が起きようと、鎮静することはあり得ない。 男の手がスーツを剥ぎにかかった。床には土埃が溜まっていた。その土埃が男の動きで舞い立つのが、隙間から射す陽の篩の中にみえる。純子は泪の溜まった目を閉じた。男の荒れた掌が乳房を引き出して鷲掴みにしていた。 「やめるんだな」 ネクタイの男が、低い声でいった。 「なんだと!」 男は、乳房を離した。 「やめろ、いっとるんだ。もうこれ以上、あんたのごたごたはたくさんだぜ」 磨いだような感じの声だった。 「おれが先にやるのが、そんなに、気にくわねえのか」 男の声は引きつれている。 「面倒はいけねえといっとるのだ。黙って、その女を帰らせてやれ。そうすりゃァ、女は、このことは忘れちまうさ。そうだろう、女」 「はい――」 純子はあわてて起きた。 「誓います。だれにも、決して喋りません。おねがいです。許してください」 「いいとも、さあ、けえりな」 「待てッ、この女は、ただの女ではねえんだぜ!」 「それが、どうした」 冷たい声だった。 「あんたはヘリの操縦をしてればいいんだ。それとも、なにか・・・」 純子は二人の男の側をすり抜けて事務所に出た。ハンドバッグとパラソルを拾って、走るように建物を出た。カッと陽射しが体を包んだ。燃えるようだ。その中に体の芯だけは凍えていた。敷地の外を東西に一本の砂利道が走っている。陽射しが照り映えて白っぽい陽炎に浮かぶその路を、純子は小走りに走った。 三影は、純子をみていた。パラソルもささずに走って来ていた。側に来た純子の顔はひどく青ざめていた。白い額に苦しそうな汗の滴が浮いている。瞳にいまにも狂いそうな乾燥したものがある。 「なにが、あったのだ!」 三影は、倒れかかる純子を支えた。 「わたし・・・」 純子は泣いた。犯されたわけではなかった。その寸前で救かったのだが、なぜ、自分だけはいつもそうなのか――その哀しさがたまらなかった。泣きながら、説明をした。 ... 「もうそろそろ、やって来るわ。あなたは隠れていたほうがいいわ」 純子は葦の繁みから路を透かしてみた。たんたんと伸びた路にはまだ人影も車も見えない。 「そうしよう」 三影は繁みに入った。午後三時四十分。約束の時間が近い。 繁みから純子の姿がみえた。純子は海に向かって波打際に立っていた.パラソルの影が落ちて、清楚な感じが渚に漂っている。海が背景だからかもしれない。しかし、その清楚さにはガラス玉のようなもろさが潜んでいた。男の一握りでたちまち自由を失ってしまうもろさがある。あがくことすらできずにすぐに奴隷となって生きる危険さが潜んでいると思う。それが女なのかもしれないと、三影は、心の奥で溜息をついた。 あるいは、純子でなくてもだれでもそうなるのかもしれない。相手が悪すぎるのだ。犯すこと、殺すことが日常茶飯事の男たちにかかっては、たとえどんな気丈な女でも、這いつくばらざるを得ない。 三影は流木を手に握っていた。手頃な得物だった。握る手に力がこもっていた。相手は肉塊だらけの大男だという。大男だろうが、一対一なら闘って負けるとは思わない。だが、それでもなにがしかの不安はあった。もし負ければ、純子はこの場から連れ去られるのだ。目の前の清楚な姿はたちまち崩れる。待っているのは際限のない凌辱であった。男たちの前にひれ伏す純子の白い体がみえた。そんなことは、させはしない。 ... ――やって来い。 肉塊だらけの男は、純子の裸を想像しながらやって来る。倉庫の中でねじ伏せ、乳房までは掴んだのだ。犯しそこねた血が頭に昇っていよう。 三影は、海に向いて立った純子の後ろ姿を眺めていた。ヒップの位置が高い。若い体だ。汚れをとどめることのない凝視の肌だが、しかし、その奥には女であるがための悲哀があるのかもしれない。新婚生活中の人妻がある日、暴力で男たちの奴隷にされ、夫の前でさんざんなめにあった。それを眺める夫もけものと化して、衆人環視の中で奴隷同士の交合を行い、最後はあまりに汚い面をみすぎて、お互いが憎しみ合うようにさえなった。 そうした一夏の屈辱の記憶が、海をみつめる純子の後ろ姿に哀しさを思わせ、その悲哀感がかえって清楚なたたずまいをかもしてみえるのかもしれなかった。 足音がすぐ側でした。 三影は体を竦めた。重い足音だった。三影の潜んだ葦の繁みの側を男が早足で通り過ぎた。純子は振り返らなかった。 男は大股で純子に近づいた。 たしかに大きな男だった。背丈は三影と同じくらいだが、横幅がある。剥き出した腕が太い。肩の肉が盛り上がっていた。 男は無造作に純子に近づいた。なんの警戒もない。近づいて、傍若無人に純子の肩を掴んで振り向かせ、ものもいわずに抱きしめた。背中が反り返った純子の手から、パラソルが落ちた。男は噛みつくように純子の唇を吸いはじめた。どうにも我慢できないという、それは血をみた牡牛の動作を思わせた。 男の手は純子の胸に入っていた。 乳房を鷲掴みにしている。 男は頭に血が昇りすぎていた。前後を考える余裕がないようだった。よだれのひいた口を離すと、その場に純子をねじり倒した。倒したと思うと、やにわにスカートをめくり上げ、太い腕を股間にさし入れた。 見ていて、三影は呆れた。飢えた囚人よりもひどかった。男の横顔がゆがみきっている。純子は横顔を海に向けていた。これでは、どんな女でもあらがうことはできまいと思えた。掴まれたが最後、諦めるしかない暴虐さが、男の全身に満ちあふれていた。 男はパンティをもぎ取った。純子の白い足が海の青さを切って空に動いた。 |
![]() 三影と純子は、ヘリの会社の男を痛めつけて得たわずかな情報をたよりに、神戸に向かいます。そこで 夫婦としてアパートの部屋を借り、麻薬組織の手がかりを追い求めます。そして、沼田という男を知り、 密売人を装って接近します。沼田は自分の女である悦子を目の前で三影に抱かせて、それを写真 に写すという陰惨な性格の男です。沼田への接近には成功する三影ですが、深入りし過ぎて 敵にアパートを知られてしまいます。三影はまだ気がつきません。そして二人は夫婦だから男女の行為も... |
| 傍に立った純子の腰を三影は抱いた。純子はこんどは逆らわなかった。 「いいのかい?」 畳に横たえて、訊いた。 「ええ」 純子はうなずいた。 三影はゆっくり純子の着衣を剥いだ。白い体だった。同じ白さでも悦子の病的な青白さはなかった。肉づきも豊かだ。唇から乳房、そして下腹部へと唇の愛撫を下げた。純子は動かなかった。放心したように、なすがままにまかせていた。鼻筋の脇に落ちた影が濃い。 男に裸身をゆだねて動かない女の体を弄びながら、三影は、これまでになかった異様な感覚をおぼえていた。いつもの性愛とはちがった、黒い炎の身内に燃え上がるのを意識していた。その黒い炎の中には、沼田の凝視があった。悦子がいた。江波がいた。南アの山小屋でのただれた性の饗宴があった。そうしたまがまがしいものが意識の空間の中で三影の行為を見守っていた。肌を刺す無数の視線――衆人環視。 純子の体に、沼田の命令で男に体を開く悦子が重なった。 三影はあらあらしい動作で、純子の足を押し広げた。純子がウッと、小さくうめいたほどだった。暴力と麻薬と、加虐に自虐――いつの間にか、三影はただれはてた臓腑に似たものを自身の中に溜めていた。清潔感が消えてしまっているのを知った。純子の肌は白い。一夏の屈辱はどこにも痕跡をとどめない。しかし、その白さの奥にある、自身ではどうにもならない狂気を呼ぶ女の性が、三影を凶暴にさせた。それは女への不信感であった。女は性器そのものであるという気がした。暴力に屈し、男に膝を折る性器――その性器の白く輝く美しさが、三影をひどくいらだたせ、腹だたしくさせていた。赤い布をみた牡牛のように三影は突き立てた。 |
![]() そしてある日、三影は知るのです。純子が誘拐されたことを...沼田とその仲間は、三影と薬を取引すると称して 彼と接触し、睡眠薬を飲まされて朦朧として帰宅する三影を尾行して、彼の居場所をつきとめ、そこに彼が、妻の純子と 住んでいることを知ると、純子を誘拐したのです。また奴隷生活に落とされる純子...三影の頭を南アの情景が過ぎります。 |
| 目が醒めたのは、翌日の昼過ぎであった。 扉か何かが開いたようなスパリとした目醒めかただった。三影は体を起こした。最初に思ったのは、ここが自宅かどうか、だった。見回すまでもなかった。見慣れた部屋だ。 伸びをした。爽快な目醒めだった。夢一つみなかった。深淵の底に正体のない体を横たえていた。 純子の姿がなかった。買い物に出たらしい。ゆっくり、記憶が戻った。タクシーの運転手に起こされ、よろめきながら階段を登り、部屋に入るやいなや、くずおれた。 ふっと、昨夜来の疑惑が蘇った。 沼田は、なんのために睡眠剤を飲ませ、自分たちも飲んだのか――どう考えてもなっとくのいかない、不審なやりかただった。仲間の来るのがおそすぎたのか?だが、それなら沼田は帰ろうとする自分を阻止したはずだ。自分たちもふらついているとはいえ、三人がかりなら、阻止できたはずだ。 ――なぜだ? ・・・ 髭を剃り終えた三影の視線が、部屋の隅の新聞紙に落ちた。朝食の支度がしてなかった。何かが、胸を刺した。細い金属の矢に似たものだった。昨夜の不安が凝縮され、するどい矢になって突き刺さったのだ。 ――まさか純子が・・・ いまは昼過ぎだ。朝食の支度がないというのは、訝しい。朝食の買い物に出る時間ではないのだ。南アでのすさみきった奴隷生活にもかかわらず、三影と一緒になった純子には自堕落なところがなかった。あれほどの性の悦楽に酷使された体に、一点の汚辱もとどめていないのと同じに、精神に澱みはもっていなかった。三影と一緒になった純子は無垢の清純さがあった。体も心も清純そのものだけに、三影はその純子を苦しめた南アでの惨事を呪う気持ちが強かった。それはともかく、純子は恋妻のこまやかさで三影に尽くしてくれていた。朝は三影より早く起きる。六畳一間の狭い部屋で、寝乱れた顔をみせまいと心を遣い、朝食もキチンとこしらえた。 その純子が、朝食の支度をしていない。 三影の顔色がゆっくり褪せた。買い物籠がなかった。 <まさか・・・> つぶやきにふるえが混じっていた。そのふるえが凶を告げていた。 三影はアパートを走るように出た。マーケットは近くにある。純子が買い物に行くのはそこしかない。 マーケットに純子の姿はなかった。それをたしかめた三影の足が、わなわなとふるえた。 ――沼田か! するどい早さで昨夜の謎が解けた。 沼田は尾行して三影の住居を突きとめるために、強力な睡眠薬を飲ませたのだ。そうでもしなければ尾行は不能な相手とみた。どこかに、尾行する仲間を潜ませていたのだ。 住居を突きとめて、妻がいることを知った。そこで見張りを寄越し、買い物に出た純子を――。 <許さん!> 三影はふるえ声を落とした。ふと、自分と悦子の交わるのをみつめていた沼田の、陰惨にゆがんだ顔を思った。また昨夜の谷町とかいう男の、悦子の尻を見るねばい顔が。 寄ってたかって犯される純子の、悲しみに耐える白い貌がみえた。泣きたい思いがした。憤怒よりも、ふたたび奴隷に引き戻されて虐げられ、心ならずもそれに従う純子を思うと、恐怖が先にたった。 臓腑がなくなりでもしたように、体から力が脱け落ちていた。 アパートに、三影は戻った。 放心したように座り込んだ。体が小刻みにふるえている。気分を鎮めるのだと自分にいいきかせたが、無駄であった。 南アルプスのことを考えろ、そうすればおちつけるのだ。あそこでは、純子は裸の腰にロープを結えられ、四人の男が、したいときには好きかってに純子を転がし、這いずり回らせて背後から犯したり、考え得るかぎりの弄びかたをした。その乱暴狼藉を三影はいやというほどみせられていた。それでも、胸に痛みはなかった。いままた、同じことが繰り返されるだけだ。傍観者になることだ。そうすれば虚脱状態から脱けられる――。 だが、その考えはむなしかった。いまの三影には、純子は生まれおちたときからの定めにひとしい、恋人であり、妻であった。何人にも触れさせることのできない、たった一つの、三影の至宝であった。 座ったまま、三影は待った。何を待っているのか、自分にもよくはわからなかった。何かの都合で遠出をしているのかもしれない、純子の帰宅をか。いや、そうではなかった。破局だ。いや、破滅だ。破滅の跫音のしだいに高鳴る重い響きが、鼓動の奥に聴こえる。 想念の中に、男たちに弄ばれている純子の裸身が執拗に浮かび、その映像が三影を打ちのめした。 ・・・ |
![]() 三影は沼田を訪ね、純子を誘拐した一味のボスのところに案内させます。自分から死にに行くようなものですが、 彼には純子を捨てることはできませんでした。張という麻薬密売組織のボスは、三影に警察の人間であることを認め させようとしますが、三影はもちろん認めません。張は純子を三影の前に引き出し、目の前で陰惨な凌辱を始めます... |
| 「奥さんを、お連れしなさい」 張は小声でインターホンに命じた。 「いまに、わかるでしょう」 それまでの余裕のある笑いを、張は、ふっと収めた。 緞帳が動いて、その陰から純子が若い男に連れてこられた。男は純子を張の傍に立たせて去った。 三影は無言で純子をみつめた。青白い貌だった。病的なうつろさがある。たった半日足らずの時間が純子をはや絶望のはてにある虚無の世界に突き落としていた。 「白状しますか」 張は訊いた。 「白状するにも、俺は警官ではないし、三影竜昭なんて男は知らん」 どちらにしろ、ただで済むわけはなかった。殺されることは、目にみえている。それならいおうがいうまいが同じことであった。 三影は、強い眼差しで純子をとらえた。純子の視線にうなずき返すものが含まれていた。覚悟のできていることを、無言で報せていた。 「沼田さん――」 張は、顎で純子を指した。 沼田は立って純子の側に行った。体を竦めている純子のスーツを、沼田は無造作に剥ぎ取った。純子は逆らわなかった。逆らったところでなんの益もないのだ。ブラジャーを取られ、パンティを引き下ろされて、純子は部屋の中央に塑像のように突っ立ったまま、目を閉じていた。 「いかが、ですかな」 張はにぶい目で、純子の裸身をみていた。 「さっさと殺したらどうだ」 三影の声がふるえた。 「わたしは、真実が知りたいのです。あなたが白状すれば、奥さんはいやな思いをしなくても済みます」 「殺せ!」 三影はうめいた。 「そうですか」 張は、立った。黙って純子を抱え上げた。おとなが子供を抱いたように、みえた。目の前のテーブルの上に純子をあお向けに寝かせた。両脚を押し拡げた。 三影は唇を噛んでみていた。 張は抽出から何かを取り出した。それを三影にみせた。女性専用の性器具のようだった。先端部分に植毛らしいものがみえた。精巧な造りらしい。 張はそれを純子にみせた。純子は意思のない人形のような青みがかった瞳で、それをみた。張はそれを純子の口に押し込んだ。大きな手で顎の骨を握って口を開かせ、強引に差し入れた。口中一杯になって、割けそうにほおが引きつれている。 「やめろ!きさま!」 三影は突っ立った。しかし、踏み出す前に沼田の一撃が腹にのめり込んでいた。ソファにくずおれた。 張は純子の口で遊んでいた。苦しそうに純子の腹が波打っている。 喉まで入れているのだ。苦悶の泪がほおに流れている。 やがて、張は、それを口から抜いた。下半身に回った。純子の押し拡げた股間に、張はそれを当てがい、ゆっくり押し込んだ。純子の腹が大きく波打って、のけぞるように喉仏が動いた。 目の前の光景だから純子の全身がみえる。張は向こう側に立っていた。張の右手がゆっくり動きはじめている。リズミカルで正確な挿入運動だった。左手の指が女の鋭敏な部分をつまんでいる。張は巨体を屈み込ませて、まるで外科医の慎重さで純子の性感帯を掘り起こしはじめていた。 三影は、喉が引きつれていた。顔から血の気が引いて、呼吸が苦しかった。握りしめた手がふるえ、足も小刻みにふるえている。 静寂がたちこめている。 張は同じ動きをつづけていた。どれくらいその動きがつづいたのか、やがて、純子の白い喉が、コクリと動いた。 三影の体を恐怖に似たものが走った。 張の正確な動きはつづいていた。 三影はおのれを金縛りに縛っていた。体が動かない。張の動きは残忍きわまりないものだった。巧緻に造られた性器具で純子の反応を引き出し、その反応を、女が示し得る極地にまで昂めようとしている。 それは避け難いことに思えた。若い女の体は意思とは逆に、しだいに張の手にある性器具に征服されていく。昇りつめずにはおかない。また、それなりに造られた性器具であるにちがいない。 純子の喉の動きに、三影はその兆候をみた。純子の喉が嚥み下したのは、屈辱だったかもしれない。張がこの残忍な遊びをやめるとは思えなかった。やめない以上、張に逆らうことはできない。 ――純子は意思を捨てた。 三影は、そう思った。無益な反抗を捨てて、張の思うがままの女に、純子はなろうとしている。いまに純子の体は反応をはじめる。三影にはそれがわかっていた。南アルプスの小舎での忘れることのできない悪夢が浮かんだ。椅子に掛けた江波の股間に顔を引き寄せられて口を汚され、あげくに純子は床に転がされて江波の足指にもだえたのだ。 あのときも純子は意思の力を捨てていた。意思を持ちつづけることは自分自身を殺すことになる。屈辱に耐えることができなければ、舌を噛んで死ぬしかない。それができないのなら、体の反応にまかせるしかないのだった。 江波のあの暴虐にも体で応えた純子が、この張の凌辱に意思を捨てて従うことは、明らかであった。 三影は目を閉じ、耳を塞ぎたかった。 純子のもだえを見、声をきくことは、三影にとっては死にまさる苦痛であった。 しかし閉じはしなかった。閉じたところで、どうなるものではなかった。 純子の青白いほおに紅潮が射しはじめていた。張の行為がはじまってから数分が過ぎていた。白い、なめらかな下腹部の呼吸運動が早くなっている。 純子が唇を湿したのが、みえた。かすかなあえぎが唇から洩れている。あえぎというよりは荒い呼吸なのかもしれない。 張は秘技を駆使していた。深く、浅く、その変化のある繰り返しに正確につづけている。グローブじみた手の指は同じ、女の鋭敏な場所を弄びつづけていた。 純子の唇が開いた。何もかも忘れたように、軽く閉じた瞼がが痙攣しはじめていた。わずかに開いた唇から、かすかな声が洩れた。ああ――と、はっきりきこえた。 張の性器具の動きが、それをきいて少し早くなった。侵入の度合いが深まっている。しだいしだいに奥深くなるようだった。それにつれて、純子の声が昂まりはじめている。 三影は、目を閉じた。閉じざるを得なかった。純子の白く豊かな腰が張の動きにつれて、ゆっくり上下しはじめていた。いまは甲高いうめき声が間断なく、唇から出ていた。うめきの合い間にしきりに唇を舐めている。 目は閉じたが、耳はきこえた。 地獄からきこえてくるような、人間のものとは思われない悲鳴が湧いていた。容易には終わらなかった。絶えだえに細く遠のいたかと思うと、また盛り返してきこえた。それが数回つづいて、終わった。 三影は、目を開けた。純子はテーブルの上にグッタリ、横たわっていた。張は純子の乳房に掌を置いていた。表情のゆがみに、張自身の極度な昂ぶりがみえる。 「お気の毒だが、あんたには死んでもらう」 張はそういって軽々と純子を抱え上げた。そのままソファに運んでズボンを脱ぎ、裸の膝に純子を乗せた。純子は張の股間に跨がり、腰を動かして合わせ、自分から張の幅広い胸に抱え込まれていった。もう意思のないただの肉体であった。いや、張の奴隷になる意思を、抱かれたほっそりした背筋にみせていた。 「妻を、どうするのだ」 三影は、ひからびた声で訊いた。 「奥さん、ですか」 張は純子を抱きしめていた。 「奥さんは、わたしのものにします。厭きたら、別の麻薬栽培所に下げ渡しますよ。そこでは、女が必要なのです」 純子は張にしがみついて腰を動かしていた。その直な背と、押し拡げられた尻に、三影は別人をみた。張にそうするようにいわれて動いているのか、自分からまたむさぼっているのかはわからないが、表情のみえないその後ろ姿は、三影の知らない女の体だった。 女は性器だと思った。 しかし、そう思うそばから、処刑をいい渡された夫の目の前で犯され、もだえなければならない純子の哀しみが、思われた。 「そうか・・・」 三影は、純子の上下に早く動く腰から目をそらせた。もう二度と会うことはないのだ。ともかくとらわれた純子を見捨てることができなくて死を覚悟でやってきた。そのことだけはわかってくれるだろうなと思った。 そらせた視線には、永遠の別離がこもっていた。 |
![]() 夫、三影の目の前で、張のとても淫靡な責めに屈服させられた純子...張は純子の反応性のよさに感服して 自分の女にすると宣言しました。純子を自分の膝に座らせて犯しながら...そして、三影には、死を宣告します。 危うく神戸の海深くに沈められるところだった三影は、からくも警察によって救助されますが、誘拐された純子の身の上を 思うと、いても立ってもいられません。麻薬栽培農場を破壊した純子に加えられるであろう凄惨な復讐のリンチと凌辱... |
| これまで十数年間、警察の必死の探索にもその正体をあらわさなかった麻薬密輸の総元締である張は、とうとうヘマをやった。麻薬栽培を口にする三影を、不用意にも自宅に連れ込んだのがそれだ。正体をみせた以上、張はその場で三影を殺すべきだった。何があろうと殺さねばならなかったのだ。それを怠った。人間、いかに用心深かろうと、またいかに大物であろうと命脈の尽きるときはある。今の張がそれであった。屋台骨にガタが生じていたのだ。本人たちは勘づいていなかったかもしれぬが、秋武剛と組んだことがもとで、すでに警察庁と厚生省直属の麻薬取締事務所がひそかに探索についていたのだ。崩れるべきときだったというべきかもしれない。 ただ、張はさすがに機敏だった。巡視船が出動したのをどうやって察知したのか、まるで目撃でもしていたように、すばやく行方をくらませた。 悪運はまだ尽きていなかった。 捜索隊がてぶらで引き揚げたのをみて、三影の胸が疼いた。張は逃亡する際、純子も連れだしたのだ。 ――生きているのか。 その判断はつかなかった。張は純子を殺すとはいわなかった。自分の女にして、厭きれば麻薬栽培農場に送り込むといった。そこでは女が必要なのだと。ふつうなら、張はそうしただろう。純子は勁烈な性格を持っている反面、逆らえないと悟ると、相手がどんな嫌な男であろうと、命令には従順に従う一面がある。泣いたりわめいたりはしない。体を捧げ、どんな虐待にも耐える。そうした純子は扱いやすく、相手にとっては殺しにくい。 だが、今の張は逃亡中である。こと面倒とみれば、殺して捨てるおそれが充分にある。 それに、牙城を捨てた張の逃亡先は第二の麻薬栽培農場しかあるまい。張は九分九厘、そこに向かったとみるべきだ。もし、生きて純子が連れ込まれたらどうなるのか。 そこには江波がいる。町田もいよう。江波の妻を強姦しててなずけた吉良もいるかもしれない。それらは張にまさるとも劣らない残忍な男たちだ。南アルプスの麻薬栽培所を潰した片割れの純子を、連中がどう扱うか――。 三影にはその地獄絵がみえる。 それはもう人間であることの矜持はかけらもなくなるまでの精神と肉体の両方のはずかしめが、純子を待っているのだ。そこには何人かの男女がいるにちぎない。それらの男女のサディスチックな弄び道具となって腰にロープを結えられて床を這い回り、ひとびとの足の裏を舐めて回らせられる純子の、屈辱に耐える白い顔が、三影にはみえた。 あるいは満座の中で拷問遊びか。 奴隷に自分の小便を飲ませる江波だ。純子の裸体にさまざまな折檻を加えることなどは得意になってやろう。 網膜の奥に繰り広げられ、燃え上がる地獄絵に、三影は唇を噛んだ。 殺すか殺されるか、こんどこそは最後の修羅場であった。武器を手に入れ、容赦のない闘いを挑んでやる。それには、第二の麻薬栽培地を捜さねばならない。 <そいつは、どこにあるのだ> 三影はつぶやいた。 ・・・ |
![]() 純子はあらたな麻薬栽培農場に連行され、そこで奴隷として働かされました。コカの葉摘みの強制労働は 文字通りの奴隷として、そして、男たちの性奴隷として...無断でコカ葉を口にしたところを見つけられ、笞刑を 受けることに...しかも、農場での笞刑とは鞭で打たれるだけではありませんでした。食事も抜かれ、そして... |
| 純子はコカ葉を摘む動きをとめた。コカ葉を噛むのやめた。すぐ傍に監督の宗方が立っていた。宗方の刺すような目が純子をみつめている。 「おまえ」 宗方は傍に寄った。 「コカ葉を盗んだな」 宗方は右ほおに刃物傷のある三十過ぎの男だった。いきなり純子の顎を掴んだ。骨が外れそうな力だ。純子は口を開けた。宗方は口中に指を突っ込んでコカ葉を引き出した。 「油断のならねえ女だ。コカ葉を盗めばどうなるか、知っているのか」 「はい」 純子は諦めてうなずいた。コカ葉にかぎらない。この農場はケシと大麻を栽培している。どれを盗んでも極刑が待受けていた。とくにコカ葉は日本では貴重な麻薬であった。その上、そのまま噛んでもかんたんに陶酔が得られる便利さがあるから、監視は厳重であった。 「こっちへ来い!」 宗方は純子を乱暴に引きずった。腕の抜けそうな力だった。 収穫を終えたばかりのケシ畑を、宗方は純子を引きずって横切った。その向こうに雑木の斜面がある。斜面まできて、宗方は純子の手を離した。 「そこに、座れ」 宗方は純子を地面に座らせた。自分はズボンを脱いだ。目が燃えている。刃物傷にあぶらがテラテラ光っていた。 「やれ!」 宗方は下半身、裸になり、すでにいきりたっている男を純子に立ったまま突きつけた。純子は狂暴にみえる宗像の表情から視線を落とし、目の前にあるそれを口に含んだ。宗方は純子の髪を?んだ。口中深くまで宗像の男が差し込まれた。息がとまり、むせかえり、その苦しさに泪が出た。宗方は容赦しなかった。髪を握りしめて引きつけ、強引に腰を使った。 どうにか離されたとき、純子は体を支えていられなかった。酸素不足で蒼白になっていた。喉が潰れた感じがした。離されても棒を呑んでいるようだ。疼きがある。草に倒れ伏した。その純子の腰に宗像の手がかかった。一気にジーンズが引き剥がされた。裸にされ、純子は尻を高くかかげさせられた。宗方はその純子の尻を抱え、男を突き刺してきた。あらあらしい、まるで雄牛を思わせる性交だった。宗方は短いうめき声をあげながら、なんどか突きたて、純子の尻を鷲?みにした。 「仕事に戻れ。今日は見逃してやる」 放出したあと、宗方は無愛想にいった。 「ありがとう」 純子は、宗形に両手をついた。 栽培物の盗みは笞刑であった。鞭打たれたあと二日間、食事が抜かれる。男でも女でもそれは変わらなかった。ただ、女はさらに残酷だった。男たちのしたいほうだいの玩弄物にされるのだ。 ここには女が五人いた。男が十人いる。最初は男五人に女四人だった。張が手下を四人に純子を連れて逃亡してきて、にわかに大所帯になったのだった。 ・・・ 四人の女は、純子と似たような奴隷であった。暴力団員とかかわりを持った女を拐し、送り込んできたのだった。それでも数で男とのバランスが保たれていたからまだよかった。だが、そこに張の一行がやってきた。男十人に女が五人。その中で純子だけは張が離さなかった。他の女たちは交替で男と寝るよう配分が割りふられていた。女四人に男九人である。 ・・・ 男たちは純子だけは抱けなかった。 宗方はその純子を犯す機会を、待っていたのだった。 宗形が大股に歩き去ったあとで、体の始末をして、純子は雑木林を出ようとした。その目の前に、江波が立っていた。 「コカ盗ッ人女め」 江波は、前に立ちはだかった。 「張の女といえども、盗ッ人は処刑しなけりゃならん。笞刑に食事抜きだぜ」 純子は地面に腰を落とした。ほお骨が高くて、凹んだ目の江波は、南アのときと比べてさらに貧相というか、落ちぶれた相になっていた。目だけが陰惨に燃えている。 「もともと、おまえは、おれの奴隷だったのだ。南アでのことを忘れたのか」 「いいえ」 純子は江波をみつめて、首を振った。 「脱げ」 「はい」 はいたばかりのジーパンを、純子はまた脱いだ。 江波の表情に、自分自身を焼き尽くすような粘い炎があった。 ジーパンを脱ぐ純子の肌をその焼きそうな炎が舐めていた。逃げた奴隷をふたたび自由に虐げることのできる喜びであろうか、過度な昂ぶりがみえる。 江波はここでは、南アルプスの麻薬栽培農場とちがって、ただの作業員にすぎなかった。南アのときは客分として秋武が送り込んだばかりだった。人数も少なかったし、町田たちも客分扱いにしてわがままを許した。だが、ここはちがった。 ・・・ 奴隷の女よりは位が上だというにすぎない存在であった。しかも張が四人の男を連れて乗り込んだから、江波の立場はその最下位ということになる。 性欲抜群の張に抱かれる純子を、江波は暗い目で見ていた。かつては、素裸に腰縄をつけて思う存分弄んだ女が、いまは一指すら触れることもできない。しかも、自分は最下位だ。女の配分もそれに応じて薄い。もともとねじれていた性格がさらに鬱屈して、いまはどす黒い欲求不満を皮膚の下に溜めていた。 純子はパンティを取って、枯れ草に腰を下ろした。 「這え!」 江波の声はふるえていた。 純子は這った。這った瞬間に尻に衝撃を受けた。江波が細い枯れ枝で打ち据えたのだった。 「おまえは、俺の奴隷だったのだ。思い知らせてやる」 江波は二、三度打ち据えた。 唇を噛んで、純子は耐えた。コカの陶酔がまだ心の中をたゆとうていた。それが唯一の救いだった。打ち叩かれる枯れ枝の痛みさえ、陶酔は甘美なものに変えた。いまの状態なら何をされても苦痛を和らげることができた。心にも傷を受けないで済む。 おのが昂奮に異様な精神状態になっている江波の打ち振るう鞭は、しょせん純子を傷つけることはかなわなかった。 打たれながら純子は、三影のことを思った。報復が成功していれば、いま悪鬼のような表情で枯れ枝を振るう江波は、自分が殺すはずであった。 考え得るかぎりの残虐な殺しかたをしてやると決心したその男に、いままた、とらわれの身となって、犯されようとしている。コカの陶酔の中を、一筋の無念さがツーと走った。 「これからも、おれの、いうことを、きくか」 江波は喘いでいた。 「はい」 「おれを、じゃけんにしたら、殺してやる」 江波は枯れ枝を捨てて、ズボンを脱いだ。 純子は這ったままでいた。江波が尻を?んだ。江波が自分の下半身を押しつけてきた。 純子は、目を閉じた。 ・・・ その足音を聞いたのは、江波が責め立てている真っ最中だった。 「おい」 その男が声をかけた。 江波の腰の動きが停まった。 「邪魔、するな!」 江波は泣くような声で叫んだ。 「ボスの女を強姦するとは、ええ度胸や」 男は江波の襟を?んで純子から引き離した。大男だった。九鬼という、張の用心棒だ。兎を放るように江波を放り棄てた。 ・・・ 純子は、張の待つ小舎に向かった。 小舎は二棟あった。どちらも丸太で組み上げたものだった。その一つに、張と張の連れて来た組織員が入っていた。張は小舎の一部を仕切り、その中に住居を設けていた。 「連絡が、ありました。あなた、コカ葉を盗みましたね」 張は板でこしらえたベッドに横たわっていた。純子はそのベッドの側にひざまずいている。張に呼ばれたときはいつもそうだった。ことばは丁寧だが、張はその巨体に似合わず几帳面で、その上、執念深い性格を秘めていた。独り占めにしながらも、純子を決して奴隷以上には扱わなかった。 「はい」 「それをとがめられて、宗形さんと江波さんに犯された・・・」 「はい、許してください」 純子は頭を深く下げた。 「困ったことです」 張は葉巻をくわえた。張は決して麻薬類は吸わない。板張りの天井をみていた。その横顔に色濃い焦燥がみえる。いつまでもこの山脈中の小舎に潜伏しているわけにはいかない。神戸でも名士の部類に入り、豪壮な邸宅に住んで、極東全域の麻薬界を牛耳っていた男である。 張は香港に数百億の資産があると洩らしたことがある。そのとき、純子を香港に連れて行き、奴隷は奴隷ながら、ともかく面倒はみてやるといった。 張はもう日本には住めない。香港への脱出に苦慮している横顔だった。 「どんなふうに、二人に犯されたのです」 ふいに、張は顔をねじ曲げた。肉団子をくっつけたような顔の奥に、細い目が淫靡な光をたたえていた。 「はい・・・」 純子は口ごもった。口ごもったところでむだであった。張は純子の心まで自在に取り出す権限を持っている。 顔を上げたとき、表を数人の乱れた足音が走ってくるのがきこえた。 足音は乱れたまま小舎に押し込んできた。 間仕切りの向こうで、ただならぬ気配のたち込めたのが感じられた。 ・・・ 純子は外に引き立てられた。 二棟ある小舎の間に草地がある。その草原に杭が打たれている。笞刑にする女を縛るためのものだ。縛る役は江波だった。江波は純子を素裸にした。両手を後ろに回して手錠をはめ、草原に純子をひざまずかせた。 全員がまわりに立った。張も、張の用心棒も、女たちもいた。 陽が傾きかけていた。 「やれ!」 宗形の合図で江波は鞭をかざした。鞭は生木の枝だった。ビュンと、その鞭が鳴った。一撃で純子の白い尻に赤い筋がついた。 女たちの低い悲鳴が湧いた。 数回の打擲で純子はつんのめった。うつ伏せに倒れたその背中から尻に容赦のない生木の鞭が叩きつけられた。枯れ草に横顔を押しつけて純子は耐えた。わずかしか噛まなかったコカ葉の陶酔はすでに醒めていた。疼痛が体をふるわせた。江波の鞭は太腿にも打ち下ろされた。皮膚が破れたように思えた。殺されるのだと思った。コカ葉が欲しかった。陶酔の中で死を迎えたかった。 打擲が熄んだと思ったつぎの瞬間、純子は腹の下に足を入れられ、あお向けにひっくり返された。落葉の舞い落ちてくるのがみえた。あとは何も目に入らなかった。雲のない蒼穹に薄暮がかすかにたなびきはじめている気配だった。 江波が鞭を振り上げたのがみえた。その顔が涯のしれない蒼穹を背景に、鬼面のようにみえた。肩から顔が異様に大きく膨らんでいる。それはもはや人間とはいえない奇っ怪な生き物であった。 ――鬼の牡。 そんな感じがした。 その鬼の手に握られた生木が高い空間から打ち下ろされるのがみえた。柔らかい下腹部と恥部のあたりに衝撃を受けた。その一撃で視界が砕けた。蒼穹が消え、鬼面が消えて、血の膜が網膜に拡がった。全身に痺れが走った。 第二撃が同じ箇所を襲った。純子は歯を噛みしめた。もう何も考えられなかった。意味のない光の同心円が網膜の奥の闇につぎつぎと生まれ、闇を突き破るように突進してきて、拡がって砕け散った。それは、砕け散り、抜けていく生命の輪のようであった。 コカ葉が欲しいと、純子は思った。 ・・・ 純子は引き起こされた。枕に縛りつけられた。手錠は後ろ手に杭を抱いてかけられ、倒れたり座ったりしないように腹と足をロープで杭に固定された。純子は固く瞳を閉じていた。やがて、人の気配がなくなった。 夕景の風が起こっていた。風は高い乳房を吹き分けた。蕭条の風だった。胸の谷間に冷気とさみしさを吹き溜めた。打たれた秘所をも、風はものわびしく抜けた。秋の深まった十月下旬の風に毛並みのそよぐのが、指でなぞるようにはっきりわかった。 首をうなだれ、固く瞳を閉じたままで、純子は時の過ぎるのを待った。永遠の旅に向かう時の歩みは、緩慢だった。風は動いても、時は停滞していた。 寒気が取り憑いていた。 どれほどの時間がたったのか、純子にはわからなかった。寒気が骨を噛みはじめていた。間断のないふるえが体を走っている。 陽はまだ落ちていなかった。 そっと開けてみた目に、自身の長い影が草原に伸びているのがみえた。その影に添うようにもう一つの影がある。 男が来たのだと、純子は瞳を閉じた。何をしてもよい規則だった。張の庇護のなくなったいまは、男たちの暴虐をとめるてだてはなかった。それが、これからはじまる。 南アルプスの麻薬栽培農場で純子は男の性の怪奇さを経験していた。ここの男たちに通常の性感覚はなかった。唯一の喜びは犯すことだった。汚し、犯すことだった。また、だれかが女に暴行を加えているのをみれば、見た男にもそくざに黒い炎が燃え移るのだった。 残虐に扱えば扱うほど、男たちは燃え上がった。もう、それ以上の残虐さの方法がないとわかると、男たちの目は、満たされないおのれの炎の中にぶきみに沈潜した。燃え残りの滓が男たちを苦しめているかのようにさえみえた。 男にとっては、女は責めて責めて責め滅ぼさねばならない敵でさえあるようだった。 ――コカ葉が欲しい。 これから何人の男にあらあらしい凌辱をされるのかと思うと、純子は意識を失いそうな気がした。 |
![]() 麻薬栽培農場に新しい女が連れて来られます。三たび、今度は張と手を組む闇社会の帝王秋武に捕らえられ ヘロイン漬け男奴隷に落とされた三影ですが、その彼を秋武の命令で凌辱し続けていた多津子...彼女は江波の妻 でもありましたが、秋武の配下の男に犯された上、秋武の玩弄物とされ、三影を責め折檻する役を与えられ、その役割に 暗い愉悦を覚えるサディスティックな女でした...が、秋武の秘密基地が警察に発見され、多津子は用なしとなったのです。 殺す前に農場の女奴隷として酷使されるために連行されました。張は、純子に用いたのと同じあの淫具で多津子を犯します。 |
| 多津子は狂っていた。両足をうちふるわせ、間断なく、うめき声を発していた。意識しているのかどうか、淫らなことばがうめきとともにつぎからつぎと吐き出された。 やがて、絶叫が多津子の口から放たれた。短い、牡牛の咆哮のような叫びが数回つづいて、多津子は動かなくなった。 張は器具を抜いてそのままポケットにしまった。座って、額を拭った。 「いい女です。わたし、ゆっくり抱かせてもらいます」 張は笑顔をみせ、ぐったりと動かないでいる多津子を裸のまま抱え上げた。そのまま、小舎を出て行った。 張の一味が女を一人連れて出て行った。 「あの野郎――」 沼田の声はしかし毒気を抜かれたように、かすれて力がなかった。一座はしんとしていた。 「純子は・・・」 ややあって、吉良が訊いた。 「おれだ、俺の番だ」 宗方がことばすくなに答えた。 「先に借りるぜ。なんだか、妙な気分になってきやがった。おい、来な」 吉良は壁際にしつらえられた木のベッドにズボンを脱いで転がった。純子は立って、吉良のベッドに行き、裸になった。裸になるのももどかしそうに吉良は純子を引き倒し、うつ伏せに転がした。純子は尻を上げた。吉良がそこに乗ってきた。 陶酔を、純子は待っていた。やがて、その陶酔は訪れた。蒲団にしがみついた。コカ葉のけだるい陶酔とはちがう、灼き尽くすようなするどさだった。純子は声をたてた。その音を吉良の腰の動きが突き破った。アッ、アッ、アッ、アッという間欠的な声の乱れが部屋にひびいた。宗方と沼田、井上、町田、江波、それに女が見ているはずだった。野次も入らなかった。異様にしんとしていた。 江波は暗い目でみていた。何かをわめきたそうに心が昂ぶっていた。昂ぶりすぎて懈怠な麻痺感覚さえあった。純子の白い尻が突き動かされている。それに、妻の多津子の尻がだぶった。多津子を好きなわけではなかった。だが、自分の妻だった。その妻が犯されている。今夜だけではなかった。明日からずっと続くのだ。それは何かいうにいえない。考える能力を打ち砕かれ、支離滅裂になりそうな拷問であった。 純子の尻を吉良がガッと?んだ。そのままはげしく責めたてた。いっそう間欠的な純子の声が、見守っている五人の男と二人の女の耳に突き刺さった。 吉良がうめいた。 |
![]() 麻薬栽培農場の男たちはサディストたちばかり...女を...純子を...ただ犯すだけでは満足できず、さまざまな 折檻や辱めを加えます。そして行き着いたのが、女同士に順位をつけ、上位の女が下位の女を苛める権利を持つという 身分制度...男たちは女が女をいじめ辱めるのをみて、責めている女、責められている女を犯しいたぶるという趣向でした。 多津子と純子は戦わされ、そのあげく純子は多津子の奴隷に落とされてしまいます。この決闘で決着が付く場面が秀逸です。 純子は男たちの奴隷だけでなく、多津子という意地悪な女の奴隷となり、多津子には純子を苛める権利が認められるのでした... |
| 翌朝、朝食の席でだった。 吉良が切り出した。 「おもしろい、提案がある」 「なんだ」 宗方が訊いた。宗方はハンカチで口を拭いていた。必ず食事にハンカチを使う。似合わないくせだった。 「多津子はこれまで、三影を狂ったように責めまくった女だ。鞭で打ち据え、棒で殴り、尻の穴に警棒をぶち込み、あげくは強姦だ。そりゃ、目を覆いたくなる責めぶりだったそうだ」 「それで・・・」 「純子は三影の女房だ。純子にとっては、多津子は仇だ。仕返しをしたかろうじゃねえか」 吉良は純子をみた。 純子は視線を伏せた。南アの二の舞がはじまろうとしている。吉良の一言をきいただけで、もうそれは避けられないことだと悟った。 冬が来ている。農場は閉鎖だ。すでに収穫は終わっている。張一味をどうするのかはしらないが、番人だけを残して小舎も閉鎖するのだとすれば、女は不要になる。五人のうち三人を残すにしても、二人は殺さねばならない。南アで鉄棒を把っての闘いの末に同じ奴隷を殺した映像が浮かんだ。 「やらす、のか」 「純子は南アで仲間の女と闘って殺している。この闘いは見ものだぜ」 「そんな乱暴なこと、おやめなさい」 張が口を挟んだ。 「女はまだまだ必要です」 「張さんは、黙っていてくませんか」 吉良が張を封じた。 「殺し合いか?」 「そうだ。やがて、女は不要になる」 吉良は平然としていた。 「しかし、張のいうように、いまの段階では女は必要だ。あわてて殺すことはあるまい」 宗方は反対した。 「そうか。なら、いい。いずれ――まあ、そのときはおまえに任せよう。おれは午後には帰る」 吉良はあっさり引っ込めた。 「しかし、お互いに仇同士だ。素手で掴み合いをやらすのはどうだ。勝ったほうに主導権を与える」 宗方の目がキラッと炯った。 「主導権?」 「まあ、あれだ。鶏の順位のようなものだ。順位の上のやつはいつでも下のやつを苛める権利を手中にするって、わけさ」 「おもしろそうだな」 吉良は冷たい目で純子と多津子をみた。 「おい、純子、やるか。勝てば、多少でも亭主の仇を討てるぜ」 「わたしは、どっちでもいいわ」 自分を主張することのできない立場だった。しょせんは男たちの考え通りになるのだ。 「多津子は、どうだ」 「わたしはいやです!」 多津子の声は哀れなほどふるえていた。今朝になってもまだ血色が戻らない。 「許してください。あれは、あれは、命令で、しかたがなかったんです」 「・・・・・・」 しばらくは、吉良も宗方も黙っていた。 純子は江波をみた。江波の細い目は充血していた。多津子を見ている。風景が赤く血の色に見えるのではあるまいかと思えた。昨夜、夜半をだいぶ過ぎて朝近い頃、純子は江波に押さえつけられた。江波は首を締めた。純子はもがき苦しんだ。多津子は張に連れ去られたまま戻らなかった。どす黒い嫉妬が江波を染め尽くしていることがわかった。多津子の首を締めたつもりらしかった。 いま、江波の多津子を見る目は、どうにもならぬ狂気を宿してにぶく沈んでいた。 「よし、決めた」 宗方はまた、ハンカチで口を拭いた。 「表に出ろ。勝ったほうに相手を苛める権利をやろう」 宗方は立った。 男たちがつづいて立った。 純子はそのまま動かないでいた。懇願してやめてもらうつもりはなかった。また、やめてもくれまい。 勝つか負けるかは見当もつかなかった。つかみ合いの喧嘩などはしたことがない。南アの農場で同じ女奴隷と鉄棒で闘って、喉を差しつらぬいて殺しはしたが、あれは偶然にそうなったにすぎない。自分が死ぬ気だったのだ。殺してくれ、と突き進んだ結果が、ああなった。 素手で闘う――純子は髪のむしり合いを思い描いた。おそらく、そんなふうな場面になるのであろう、それから先がどう展開するのかは、想像できない。 ただ、負けたくはないという気持ちはあった。どうせ闘うのなら、勝ちたい。多津子はそれが強制されたことであったにしろ、三影に乱暴狼藉、沙汰のかぎりを尽くした女だ。麻薬中毒になって痩せ衰え、手足を縛られたままの三影を虐げ、あまつさえ凌辱したのは、許せないと思う。できることなら、多津子をねじ伏せて三影の無念を晴らしたかった。 多津子が沼田に引きずられて表に出た。許してくださいと、多津子は哀願していた。 ・・・ 純子は黙って外に出た。 小舎の前の草原で男たちが待っていた。中央に多津子が引き据えられている。 冬のやわらかい陽射しが枯れ草の原を褐色に染めていた。風があった。引き据えられた多津子の髪がそよいでいる。多津子は何かをどこかに置き忘れ、それを懸命に思い出そうとしているような表情で、空をみつめていた。 純子は男たちの円陣の中に入った。 「純子さんも、多津子さんも、いっしょうけんめいにがんばってくださいね」 張がニコニコしながらいった。張だけではなかった。男たちの表情には弛緩がみえた。殺し合いではないから血腥さがない。愉しそうであった。 だが、江波だけは、心がそのまま表情に出て、暗い引きつれが出ていた。 純子は、多津子の前に立った。 多津子は、何かに顔面を掻きむしられた表情で、純子を見上げた。 「はじめろ」 宗方が笑いを含んだ声で命令した。 純子は待っていた。多津子が立たねばどうにもならない。多津子はしかし、立ちそうになかった。突然放り込まれたこの境遇にとまどい、おびえきっているようだった。純子は二十五、多津子は三十五だという。十年の差は柔軟さで純子にぶがある。それが多津子を射竦めているのだと思った。 と、しかし、純子は短い叫びを上げた。 腰を下ろしたままの多津子が、いきなり這って突進してきたのだった。避ける隙はなかった。もろに太股に頭突きをかまされた。そのまま多津子はすばやく純子の足を取った。 純子は不意を衝かれて尻餅をついた。多津子がのしかかってきた。胸に馬乗りになるなり、拳を叩きつけてきた。何かが砕けた気がした。鼻を殴られていた。激痛が鼻筋から目に走り、一瞬、目の前が暗くなった。 「いいぞ!そこだ!」 だれかの声援を聞いて、多津子は奮いたった。 「殺してやるッ、おまえみたいな小娘に負けるもんかッ」 多津子はそう口走っていた。力まかせに純子を殴りつけた。 純子は焦った。多津子をはねのけようとしたが、多津子は重量があった。 七、八回、殴られていた。鼻血が出ていた。目も殴られていた。このままでは殺されると思った。腰に力を入れた。多津子が浮き上がった。浮き上がった多津子が何かを叫びながら、純子の顔を掻きむしった。 純子は悲鳴を上げた。ほおの肉を掻きとられた気がした。そのとき、口に多津子の指がかかったのを、純子はガキッと噛んだ。こんどは多津子が悲鳴を上げて、のけぞった。その隙に純子は多津子をはね落とした。 転げ落ちた多津子に這い寄って、髪を掴んだ。引きずった。引きずりながら、多津子の胸を蹴った。多津子は胸をかかえて横倒しになった。 純子は髪を離した。息が切れかかっていた。多津子の乱れた髪が風になびいて顔を覆っている。その顔を純子は踏みにじった。体重をかけて二、三回、踏みつけた。多津子は両手で顔を覆った。純子はつぎに腹を蹴った。やわらかい腹を蹴りつけた。 多津子はそのたびに悲鳴を放った。鼻血が出たのか、両手も顔面も真っ赤でった。それは純子も同じだった。手にも胸にも血が滴りとんでいる。 もうなにもみえなかった。男たちの姿も声も念頭になかった。うめき回る多津子の腹をさらに蹴りつづけ、最後に馬乗りになって、血だらけの顔を拳で叩いた。その頃になって、ようやく多津子に激しい憎悪が湧いた。夫の仇だというはっきりした意識が出た。女だてらに、手足の自由のきかない夫を半死半生の目にあわせ、あげくに性交までしたのは、がまんならない。 やみくもに殴った。頭の中に血が昇って、復讐以外にはなにもわからなくなっていた。殺したいという気がした。 殴り疲れて、純子は攻撃をやめた。多津子の胸から下りた。立っていることができなかった。草原に腰を落とした。 「純子さんの勝ちです!」 張のうれしげに叫ぶ声がきこえた。 多津子は動かなかった。血まみれになった顔を押え、腹で大きな息をしていた。すっかり戦意をなくしていた。 純子は視線をそらした。やはりからだ全体で息をしていた。勝ったのだと思った。多津子を苛める権利を闘って手中にしたのだ。これからは苛めぬいてやる。夫の仇をとってやる――そう思った。 「あぶないです!」 張が叫んだ。その声に純子ははっとなって振り向いた。髪を振り乱し、血みどろになった多津子が迫っていた。両手を突き出している。そのあまりの凄惨な姿に純子は思わず逃げ腰になった。だが、そのときには後ろ髪を掴まれていた。 引き倒された。髪をむしり取るような引きかただった。純子は重心を失った。空が回転した。頭から転落した。何か固いものに後頭部をぶっつけた。意識が薄れて行った。痺れが全身に散った。 多津子は純子の髪を握って草原を引きずった。殺してやるッ――そうわめきながら、ぐるぐる引きずり回した。純子はただ引きずられていた。 多津子は髪を離して、純子の腹を蹴りつけた。五度も六度も蹴った。それから、顔を踏みにじった。顔は血だらけだった。純子はうめいていた。うめきはするが、抵抗する気力も体力もなさそうだった。服がめくれていた。ボタンがちぎれている。白い腹があらわになり、形のよい乳房がのぞいていた。何かが、多津子の激情を煽った。何なのかはわからない。ただ、乳房を踏み潰したいと思った。 動かない純子の服を、多津子は引き裂いた。服を引き裂き、下着を引き破って、こんどは足に回ってジーパンを引き抜いた。あとはパンティだけだった。それも多津子は腹に足をかけて引きちぎった。 素裸になった純子を、多津子はところかまわず蹴った。両足を拡げて股間も蹴った。腹も、乳房も、顔も、めったやたらに蹴りまくった。 「殺してやるッ」 純子は体を海老のように折り曲げ、転がった。息が詰まっていた。這って逃げる体力も気力もなかった。殺されるのだと思った。蹴られた股間から、腹、乳房、顔と、神経が棒のように凝り固まっていた。体の芯に、棒を刺しつらぬかれた気がする。 「殺してやるわッ」 髪をまた掴まれた。動けないように引き据えられ、多津子の拳を何回か顔面に受けた。ふたたび、気が遠くなりかけていた。 「もう、よせ」 だれかが、狂いたった多津子を引き離した。だれだかわからなかった。 「もっとやらせてよッ」 多津子は男の腕を振り払おうとした。 「それ以上やったら死んでしまう。おまえの勝ちだ。おちつけ」 宗方は多津子の狂乱ぶりに辟易した。目が吊り上がり、白目の部分が多くなっている。逆上しきっていた。 純子は素裸に剥がされ、体を折り曲げて横たわっていた。もう戦意はなさそうだった。 「あの女は、わたしの、奴隷よ!」 かん高い声で、多津子は叫んだ。雉の雄に似た叫びだった。 「奴隷ではないが、約束通り、苛める権利はおまえにやる。ただし、体に傷をつけることは許さん」 「いいわ!それを、あの女に思いしらせて、やるッ」 多津子は宗方を突きとばして純子の傍に走り寄った。 「聴いたッ、あんたは、わたしの下女よ!」 髪を掴んで引き起こした。 「これから、たっぷり、苛めてやるわッ」 純子はかすかにうなずいた。もう逆らう気力はなかった。 「答えるのよッ」 平手で多津子はほおを引っぱたいた。 「はい」 うつろな声で、純子は答えた。 「みんなにそれを知らせるのよッ。そこに四つん這いになりな!」 多津子はヒステリックに叫んで純子を突き転がした。 純子はのろのろ体を起こした。多津子が居丈高に傍に立っていた。その太い腰をみて恐怖に襲われた。途方もない重量感があって、純子を威圧した。 多津子の前に四つん這いになった。屈辱もなにもなかった。従わなければ殺されると思った。闘って多津子は苛める権利を獲得したのだ。それは男たちの決めた掟だった。宗方はいったん決めた掟は徹底的に実行する性格だった。多津子に渡した権利を停止することは考えられない。 四つん這いになった純子の背に、勝ち誇った多津子が跨がった。両手で髪を掴んで引いた。純子は顔を上げさせられた。男たちが無言で見守っていた。純子はその重みに耐えた。それは屈従の重みだった。素裸にされ、背に跨がられている。心の深みに二度とあらがうことのできない刻印を捺されたのをおぼえた。 牝猿だと思った。猿の世界での順位争いにそっくりだった。負けた猿は、勝った猿が傍に来ると尻を差し出さなければならない。すると、上の猿はその尻に乗る。同性であろうとそれは変わらない。尻を出し、尻に乗ってもらうことは擬似性交であった。媚を売ることであった。 男たちは黙ってその光景を見守っていた。 純子は顔をその男たちに向けさせられたまま、耐えていた。無言の男たちが何を考えているのかはわからなかった。 風の渡る音だけで、静寂がたちこめていた。その静寂を陽が染めている。 |
![]() 麻薬栽培農場で純子が男たちに犯され、多津子に辱められる性奴隷生活を強いられている間に、三影は農場の あり場所を突き止め、一人パラシュートで山奥に隠された農場に潜入します。武器は登山ナイフ一つで...そして、 夜陰に紛れて農場の建物に近づきます。三影の、そして三影と純子の、凄惨無慈悲な復讐劇が開始されようとします。 |
| 物音もなく、三影は闇に跳躍した。男の黒い影に吸いつくと同時に、背中に登山ナイフを突き刺した。横隔膜のあたりだった。男は、のけぞるように体をそらし、腕を虚空に上げた。口は押さえたが、悲鳴は出なかった。三影は男を抱えて運んだ。闇に捨てた。 もとの場所に戻った。 数分とたたないうちに、ドアが開いた。 足音がドアを出た。二人だった。三影は、はっと息を呑んだ。ドアが閉まる前のわずかな明かりに、白い横顔がみえた。 ーー純子! 一瞬で闇が戻った。二人の足音は別の建物に向かった。もう一人も女らしい気配だった。三影は闇に紛れて出た。足音を殺して、近づいた。三十メートルほど行ったところで、その足をピタと、停めた。声がした。 「待つのよ!」 甲高い声がした。 「いっとくけど、張と寝るのはわたしよ」 「でも、張が・・・」 [黙りなさい!」 険を含んだ声が走って、純子のほおを叩いたらしい高い音がした。 「おまえは、わたしの下女よ。生意気をいうと、ただじゃ済まないわよ!」 三影は、居丈高なその声を聞いて、思わずうめきそうになった。 ――多津子! ドロドロした憤怒が全身を走った。 「こうしてやる!」 短い怒声が湧いて二つの影がもつれた。多津子が純子の髪を掴んで引き下げた気配だった。一つの影が地に伏した。 「少しばかり顔がいいからって、なんだよ、てめえ、つけ上がるんじゃない よ!」 「済みません。許してください」 純子の細い声がした。 「立ちな」 髪を持って引き上げられたようだった。すぐに激しい平手打ちの音がした。 「てめえは、闘いに負けてわたしの下女になったのを、忘れたのか!」 「いいえ、忘れません」 「忘れているじゃないか!張に抱かれるのをいいことに、下卑た真似をしてわたしを追い落とそうとしているじゃないか」 「そんなことは・・・」 「ウソをつくな!」 また髪を掴まれたようだった。 「許してください。決して、あなたに逆らったりはしませんから」 細い悲鳴をあげた。その悲鳴がよけい多津子を昂らせたようだった。地面に純子をねじ伏せ、その顔に足を乗せたらしいのが見えた。 「てめえ、ここのところ、下女だってことを忘れやがって!」 口汚くののしった。 三影はすこしずつ動いていた。多津子は純子を踏みつけて虐げることに、気を奪られていた。 「わたしは、あなたの下女です。もう、お許しください」 純子が哀訴した。 「それを思い出せば・・・」 多津子が喋ったのは、そこまでだった。三影の拳を背筋に受けて、崩れ落ちた。 「俺だッ、三影だ、静かに――」 三影は声を押し殺して、純子を抱えた。 「あ、あ・・・」 あなたとはいえなかった。狂ったような勢いで、純子は三影にしがみついた。骨の折れそうな力だった。 「ついて、来い」 三影は多津子を担ぎ上げた。 闇に紛れ込んだ。 そのまま、三百メートルほど手探りで歩いた。 「ここらで、よかろう」 多津子を、投げ落とした。その衝撃で失神から覚めた多津子は、何を思ったのか闇の中を這って逃げようとした。三影は腰を蹴りつけて転がした。すばやく着物を引き裂いて猿轡をかませ、ついでに手足も縛った。 終わるのを待ちかねて、純子がしがみついた。全身に激しいふるえが襲っていた。 「泣くんじゃない」 三影は、少女のようにふるえる純子を胸に抱え込んだ。 「泣くのは、いつでもできる。おれたちにはやらねばならんことがある。報復だ。南アで誓い、ここまでの道程で何万回か誓った報復を、はたさねばならんのだ。おれは、やつらを殺してしまうまでは一匹の鬼だ。醜い、人間の心を捨ててしまった一匹の執鬼だ。どんなむごたらしい殺しようでも、おれは眉一つ動かさずにやってのける」 「あ、な、た――」 純子は泣きじゃくった。 「わたし、もう、この場で、死んでも」 「バカをいうな。何のために、君はこれまで、奴隷生活に耐えてきたのだ」 「あなた――」 ふっと、純子は泪声を振り捨てた。 「この女を、わたしに殺させて。わたしはこの女の奴隷だったの。さんざんはずかしめられて――。それにこの女は、あなたを死ぬほど苦しめたわ。その返礼を、むごたらしい返礼を、わたしがしてやるわ」 それは、鬼女めいた声だった。 多津子は体を波打たせた。必死になって逃れようとしていた。その顔に三影は懐中電灯の光芒を向けた。瞳が吊り上がっていた。 「観念、するんだな」 冷酷に三影は宣告した。 「懐中電灯を貸して」 純子は電灯で周辺を捜した。手首ほどの太さの枯れ木があった。それを拾った。 電灯を三影に持たせ、純子は屈んで多津子の服を引き剥いだ。布の一片も残さなかった。狂ったような勢いで引き裂いた。パンティも破り、素裸にした。 純子は枯れ木をふりかぶった。力のかぎり乳房を打ち据えた。多津子の体がはね上がった。横倒しになった多津子を引き戻した純子は、縛られて閉じた股間に枯れ木をあてがった。うめきにもかまわなかった。生殖器に当てた枯れ木に渾身の力を込めた。 「死ぬのよ!」 低い叫びと同時に押し込んだ。 多津子の腰がはね上がり、くの字に曲がって落ちた。純子は枯れ木を掴んだ。三十センチほど喰い込んでいた。まだ五十センチほど残っている。体重をかけて、押し込んだ。内臓をつらぬき通すつもりだった。手首ほどの太さの枯れ木は手元だけを残して、消えた。 同時に、力尽きたように純子はくずおれた。失神したのだった。 多津子は、もう動かなかった。 |
![]() 秘密の麻薬栽培農場に潜入し、純子を救出するとともに、純子を凌辱し苛め抜いてきた江波とその妻多津子を 惨殺して復讐を遂げた三影と純子。しかし、組織の抵抗は強く、あやうく生け捕りにされて、再び夫婦で性奴隷に 落とされる危機に陥りますが、警察の突入で辛くも窮地を乗り切り、警察の追及もかわして、農場から脱出します。 江波を拷問して聞き出した組織の逃走先に先回りした三影と純子は、張や秋武たちが到着する前のしばしの時を 普通の夫婦として過ごすのでした。しかし凄惨な凌辱体験を経た純子と三影にはその過去が淫靡な記憶として... |
| 「もう脱出してしまったのかしら・・・」 海風が純子の髪をなぶっていた。酷使に痩せて青白い横顔が凄艶にみえた。 「何が、おかしいの?」 三影がふっと含み笑いしたのを、純子が見咎めた。 「いや、清姫を思い出したのさ」 [清姫?あの坊さんを迫った蛇淫・・・」 「蛇淫はともかく、君の横顔は凄艶にみえた。張を海のかなたに取り逃がした無念さのようなものが、ふっとみえたのだ」 「いやな、かたね。たとえが悪いわ」 風になぶられた頭髪を、純子は噛んだ。 「おれの脳裡には消えることのない記憶が幾つかある。父を殺されたこともそうだが、おれが張の家から太平洋に連れ出されるときの、あの光景だ。心に焼き鏝を当てたように、その傷痕はいまもなまなましい」 そのとき、純子はテーブルに横たえられて張の指と性器具でみだらなうめきをあげていた。三影を見送りながら張の膝に抱かれて、白い豊かな腰をなめらかに動かしていた――。 「許してください」 純子は視線を落とした。 「そういう意味でいったのではない。ヤキモチを焼いているのではないのだ。そんなことを思えば、おれは生きていられないほど、焼かねばならんからね。そうではなくて、だからこそ、張を生かしてはおけないのだ。引き裂かねば治まらんのだ」 純子の犯されている妖しい肢体の動きに、老父の死の闘いがダブった。 「わたしも、張は許せない。いえ張だけではないわ。吉良も宗方も沼田も、これまでわたしをなぶりものにしただれ一人、許せないわ。とくに、張は許せないの。できることなら、蛇の執念になって、張の乗って逃げた船を追いたいわ」 純子の声は低かった。その思いが冗談ではないことは、海に向けた横顔に厳しい表情となって出ていた。三影はそれをみて、暗い日本海を泳ぎ渡る巨大な執念の白蛇を想い描いた。 「まだ、国外脱出と決まったわけではない。これからやってくる可能性もあるのだ。ともかく、待ってみよう」 「ねえ、あなた」 「なんだ」 「もし、ここで張をつかまえることができたら、私に殺させて」 「いいだろう。存分にやるがいい」 三影は、江波夫婦を叩き殺した純子の狂気としか思えない残忍な殺しを思った。純子が、巨漢の張を打ち殺す様を想像した。そこまで追い詰められ、殺すことに、復讐することにしか生きる意味を見出せなくなったすさまじい過去が、蘇った。 「ここにいてくれないか。旅館を予約してくる」 「いいわ」 純子は顔を上げて、またすぐに海に戻した。その姿は、いくばくかの哀しみに似た厳しさを帯びてはいるものの、一見して、ふつうの人妻だった。こうして佇んでいれば通りがかりの男たちは、はかない期待を抱いて誘いの声をかけるにちがいない。だが、その男たちが純子の江波夫婦を殺した異様さを知れば、たぶん、悲鳴をあげて逃げるであろう。もうどこにも戻ることのできない世界を、三影と純子は歩いていた。そう思うと、背後から抱きしめたい衝動に駆られた。 三影は旅館に向かった。 ・・・ 急いで純子のところに戻った。 「間に合った。連中は明日やってくる」 説明をする声が昂ぶり気味だった。 「まちがい、なさそうね」 純子の貌に一筋の痙攣に似たものが走った。 「秋武剛だ。ぜったいに」 そう断言できると、三影は疑わなかった。この季節外れの寒村の漁港にある旅館を借り切る人間――しかも、女将には何も喋るなと箝口令を出している人物。それは、秋武剛以外には考えられなかった。 「最後の闘いに、なるのね」 純子がつぶやいた。 「そうだ」 三影は純子の手を取って立たせた。肩を並べて、崖上の林を歩いた。 「明日になれば、秋武も、張もやってくる。吉良も来れば、宗方もこよう。おもだった秋武の配下は、ほとんど、やって来よう」 たぶん、三々五々と、いや、あるいは一人ずつか、誰にも目立たぬようにして連中はこの寒村に集まる。 「成算は、あるの?」 訊いた純子の声が、はや、不安の翳りを含んでいる。 「ないわけではない」 肩を抱いた。 ないわけではないと答えはしたものの、実際には成算などはなかった。だいいちに、敵の人数がわからない。集まることだけはわかっても、どういう計画なのかわからないのだ。ただわかっているのは、闘いを挑むという自身の決意だけだった。 「おそらく」、秋武は厳重な防衛線を張るわね。多勢の配下に武器を持たせて」 「だろうね」 「どうやって、近づくの」 「そいつを、これから考えるところだ」 「あなたが死んだら、その場でわたしも死ぬわ」 「心配するな。復讐を遂げるまでは、死なん。かならず、張と秋武一味を殺してやる」 荒れ気味の海が視線のはてに広い。 「君は民宿で待っていてくれないか。おれはこれから松江市に行ってくる」 「なにを、なさるの」 「盗聴器を買ってくる。今夜、あの旅館に忍び込んで、どこかに仕掛けよう。まず、敵の作戦を知らないことには、どう対処してよいのか見当がつかんからね」 「忍び込むって、そんなこと、あなたにできるの」 「捜査員もドロボウも、どっちかといえば似通った職業だ。やってみるさ」 「そうね・・・」 純子はひっそりとした感じのうなずきかたをした。感情の狂気じみた昂ぶりが襲うかと思えば、一転してただの女のおびえに戻る純子だった。よくその高低に耐えていられると、三影は思う。たいていの女なら、神経のどの部分かが切れてしまおう。 民宿に向かう純子と、三影は別れた。別れ際に純子は、無言の視線を三影に据えた。白い部分に冴えきった青みの漂う瞳だった。ときに純子はそうしてものいわぬ視線を据えることがある。一分近くもそうしていることがあった。 ふっと、その視線をそむけた。だまって、純子はきびすを返した。三影はそれを見送った。 いとおしいと思う。心が砕け散ってしまいそうな感慨が後ろ姿に湧いた。 切り刻んで、やる――。苦しくなるほどの憎悪が昂ぶった。この純子を、鞭で叩き、棒で叩き、ロープで縛って自由自在に、あらんかぎりの凌辱をほしいままにした男たち。そうされながら、人間の心を捨ててただ白い体を捧げてきた純子。 キラッと、めまいに似た嫉妬が走った。 三影は駅に向かった。 ・・・ 十二月三日。 三影は昼前に民宿を出た。 純子は民宿に残した。 「気をつけてね」 純子は強い眼差しで三影を見送った。 「あなたに、もしものことがあれば、わたしすぐに海に身を投げます」 「縁起でもない」 三影は笑って出た。今朝の純子はまた、ただの女に戻っていた。ひたぶるにみつめる視線に、どうしようもないおびえが宿っている。歩きながら三影は、昨夜、民宿に戻ってからの交わりを思い出した。純子は三影のなすがままになって、しだいに燃えた。燃えながら、ただの人妻になりたいとうわごとのようにいいつづけた。性の奴隷になり、報復の殺しに身を染め、いまは寸尺の安住の地もないことは覚悟の純子だが、その覚悟を、ふっと風の吹き抜けるように、ときに弱い女が顔 を覗かせるのだった。 そうなったときの純子は人に倍して弱々しく、風にもそよぎそうにみえた。 報復を遂げた後に、たとえ何十日かでもすべてを忘れた平穏な生活をさせてやる――三影は、そう心に誓った。 |
![]() 山陰地方の小さな漁港町...ここが最終舞台となります。本の残りページをみると、復讐は順調に進むものと 期待してしまいます。しかし、再び純子が捕らえられて...ええ、そうなんです。秋武の前に引き据えられ、裸体に 剥かれて無残な辱めを受けるのです。ああ、また...また純子が犯されるのです...しかも、純子が秋武の責めに 屈従して、この世のものとは思えない喘ぎ声を絞り出すさまが、盗聴器を通して三影の前に地獄絵のように繰り広げられ るのです。せっかく普通の人妻として三影の愛に体を開いて応えた純子が再度性奴隷に落されて受ける凌辱は圧巻です... |
| 盗聴器には二、三人の男の足音が入っている。 三影は心中、焦っていた。さっきの車に秋武とその配下が乗っていたことははっきりした。となれば、だれかが三影の姿を目撃しているはずだった。目撃していれば、三影がどこに泊まっているかを調べる。そして、殺し屋を送って寄越す。 民宿は旅館のおかみの紹介だ。すぐにわかろう。 ――純子が・・・。 その危惧があった。急いで戻ったほうがよいことはわかっていた。そう思う反面、真っ昼間から殺し屋が民宿に乗り込むことはあるまいという気もしていた。純子も騒ぐだろうし、そんなことをすれば、民宿から警察に連絡が行き、秋武一味は逮捕される。 もうすこし様子をみてからでも、おそくはない。 「張は、いつ来る」 秋武が訊いた。 「今夜です。六時頃にやってくる約束です」 答えた男の声に、ききおぼえがあった。神戸の沼田精一だ。 「張の用心棒とは、話がついたのか」 「二人は中国人です。これは一緒に香港に渡るからだめです。あとの二人は、話をつけました。承知しています」 「そうか」 秋武のふっと何かを含んだような笑いが洩れた。 「長い間、麻薬ルートをやつらに押さえられてきた。いまこそ、思い知らせるときだ。もう二度と連中に、この国は荒らさせん」 「しかし、張もわれわれの真意は察しています」 低い声は、吉良のものだった。 「とうぜんだろう」 「漁船にボスが同乗することを要求しています。沖で魚運搬船に乗り換えて領海外に出ますが、そこで香港側の魚運搬船と接触する手筈です。張はそのときまではルートを教えることを拒んでいます。先方の船と接触して、五億円と引き換えに教えるのだと・・・」 「疑い深い、男だ」 ふっ、ふっと、秋武が、嗤った。 「で、場所は選んであるのか」 「あります」 吉良が答えた。 「どこだ」 「この下の海岸沿いの道路を突き当たりまで行くと、その手前から山に登る細い路があります。一キロほど登ったところに、腐れかかった別荘があります。そこに連れ込みます」 「拷問か・・・」 陰鬱な声だった。暗い愉悦がたっぷりと含まれている。 「みものです」 「そうじゃな」 秋武がそう答えたとき、またドアの開く音がした。 「この女が、三影竜昭の女房です」 別の男の声がして、何かを突きとばした物音がした。 三影の心臓が収縮した。 ――純子がまさか、純子が! 「バカな男です。女房を民宿に残したまま、外出するとは」 三影は呼吸困難をおぼえた。また純子がつかまった――。錐を刺しつらぬくような悔恨が体を走った。絶望感が黒々と体を染めた。なぜ、すぐに戻らなかったのか――。はげしくおのれを責めた。これほど敵が迅速に動くとは思いの外であったとはいうものの、三影は自分自身の甘さを呪った。 「宗方、民宿で騒ぎを起こさなかっただろうな」 「この女は江波夫婦を殺しています。騒いで警察に知れると、自分も困るのです」 宗方と呼ばれた男が答えた。 「そうか。女、名前は、なんという」 秋武の声にねばりが出ていた。 「純子です」 その声を聞いて、三影は全身から力の脱けるのを感じた。 「純子か・・・」 秋武がうなずいた。 「三影は、どこへ行った」 「存じません」 低い声に放心したようなうつろなものがあった。きいていて、三影はとめどもなく体が奈落に落ちて行くのを感じた。純子は心を決めていた。死を覚悟している。冷たい声にそれが滲み出ていた。 ――なぜ、民宿で騒がなかったのか! だが、三影にはわかる。宗方は農場の責任者だったときいていた。冷酷な男だという。その宗方が、突然、民宿にやってきた。純子は目の前に悪夢の蘇ったのをみた。瞬間、純子はあらがうことの無益を悟った。騒げば、警察が来ることになる。自分は逮捕されても、その前に宗方に射殺されてもかまいはしないが、三影が逮捕されることになる。 純子は覚悟を決めた。ふたたび悪夢の中に戻る覚悟を――。 「訊こう。三影はなぜ、ここがわかったのだね」 秋武が訊いている。 「江波恭二を殺すときに、きいたのです」 純子は冷たい声で答えた。 「江波か・・・。で、三影はわしに復讐する気かね」 「存じません」 「そうか。三影はわしの奴隷だ。おまえもそうなる運命だったのだ。いまに、三影もとらえる。夫婦で、わしに仕えるがよい」 「・・・・・・」 純子は答えない。 「この女を置いて、下がるのだ」 秋武が、ふっと口調を変えた。 男たちの出て行く気配がした。ドアが閉まると、いっときの静寂があった、 「ドアに鍵をかけて、裸に、なるのじゃ」 ひからびた声がした。 施錠をする音がした。しばらくは物音はきこえなかった。三影は、しっかと目を閉じていた。網膜の奥に、服を脱ぐ純子の姿がみえる。それはおぞましい光景だった。無残さに体が打ちふるえた。純子に抗う術はない。ただ、命令に従うしかない。 「ここに、来なさい」 秋武の声は涸れている。 三影に屈辱の記憶が蘇った。手足を縛られて転がされている三影の目の前で、江波多津子が素裸になることを命じられ、秋武の前に立たされた。秋武の手が、腰に伸び、尻に伸び、そして股間に伸びて行く。記憶の光景はいつか純子に変わっていた。秋武が純子の尻を抱き、股間を弄んでいる。純子の白い顔が屈辱にゆがんでいるのが見える。純子は歯を喰いしばって視線を虚空に据えている。秋武の手が無残に股間を掻き分けている・・・。 三影は唇を噛んだ。ポケットの消音拳銃握りしめた。 ――暴れ込むか。 血の気のない顔で、それを考えた。純子を救うにはそれしかなかった。いや、そうやっても救えはしまい。相手は四、五人いる。最高幹部で、腕ききばかりだ。銃撃戦になれば、純子を救うことはおろか、自分も死ぬ。悪くすれば、傷を受けて秋武の前に純子と一緒に引き据えられないともかぎらない。そうなれば、ふたたび陽をみることのかなわない暴行凌辱の日々が、いのちを取られるまで続く。 ――では、どうするのか! 臓腑がなくなりでもしたように、腹に力が入らなかった。 秋武の奴隷になるくらいなら、暴れるだけ暴れて、死んでやる。だが、いざ死ぬことを考えると、三影には、決意ができなかった。なんのためにここまで屈辱の日々を生き抜いてきたのか。目の前に怨念の敵がいるのだ。しかも、張もやってくる。報復を放棄するのは、死に勝る苦痛だった。 「そこに、四つん這いに、這うのじゃ」 秋武の声をきいて、三影の拳銃を持った腕が、無念さにふるえた。 三影は、聞いていた。 長い時が過ぎていた。 かすかな物音がきこえはじめていた。喘ぎのようだった。ときどき、低い、うめきともことばともつかないものが入る。それは、秋武のたてるものだった。 どんな状態が繰り拡げられているのか、およその、想像はつく。秋武は、江波多津子のそこを気の遠くなるほど長い間、舐めていた。 そうしながら、自分も高みにせり上がるのだ。いま、同じことが純子の裸体に加えられているに、ちがいなかった。 三影のもっともおそれていた純子の声がきこえた。かすかな、それはうめきだった。ゆっくり、長い韻を引いている。泣き声のようでもあった。しだいにそのうめきが押し上げられている。 <やめて、くれ!> 三影は心中で叫んだ。純子はいまもっとも忌むべき敵に体を開いている。体を開くことは、やむを得まい。だが、その怨敵の醜怪きわまる体から、快感をむさぼることはないのだ。純子の肢体がみえる。手の動きが、素足の動きがみえる。 女の体の無残さを、三影は唇に噛みしめた。いや、女だけではなくて人間のというべきかもしれない。 「あ、あ、あ――」 純子の、低い、間歇的なうめきが上がった。そのうめきは、たかく、ひくく、続いた。 三影はスイッチを切った。切っても、純子の叫びは脳裡に消え残っていた。肢体も残っている。白い脚が秋武の醜怪な体を締めつけている。 三影は、汗を拭いた。 小鳥の囀りがきこえた。チッ、チッともの淋しげに啼いて、去った。 そのまま、三影は動かなかった。心の荒野に寂寥の風が吹いていた。遠い、死界のかなたから吹いてくる風であった。 十分ほど経って、スイッチを入れた。 「どうじゃ、いいか」 秋武が訊いていた。 「ああ、もう、やめて――あ、あッ」 恩讐も何も忘れ去った女のうわずった声が、入った。三影は、また、スイッチを切った。冷や汗が出ていた。純子は天井に盗聴器をしかけてあることを承知している。自分の声を三影がきいていることも承知だ。いまの純子の胸中には三影の存在はない。ただひたぶるに肉欲の淵にのめり込んでいる。残酷な女だと、三影は思った。張の豪邸でのことが思われた。死界に連れ去られる三影を見送りながら、純子は張の膝上で腰を動かしていた。 <忘れろ> 三影は自分にいいきかせた。できることは、いや、やらねばならないことは、報復だけだ。秋武を殺し、張を殺す。 <死骸の山を築いてくれる> つぶやいたほおが、強張っていた。 三十分ほどたって、スイッチを入れた。 秋武が喋っていた。 「陽が落ちれば、純子を連れて、わしはその別荘とやらに行っておる。張が来れば、連れて来い」 「わかりました」 吉良の声だった。 「二人の用心棒は、どうしますか」 「殺せ」 無造作に命じた。 「三影は、まだみつからないのか」 「まだです。しかし、やつは純子を奪われたことを知ったと思います。いずれ、どこかで見張っているにちがいありません」 「わしが車で純子を連れて出れば、たぶん、追ってくるだろう」 「だと思います」 「なるべくなら、殺すな。生け捕りにせい。あの男には貸しがある。張と一緒に、たっぷり痛めつけてやる。この女にその役目をさせるのだ。さぞかし、みものだろうて」 声のない声で、秋武は嗤った。 |
![]() 三影は、純子を連れて別荘に向かう秋武一味を襲撃して宗方を射殺し、純子を救出するとともに、秋武の身柄を人質として確保します。 同行の沼田には、張を別荘連れて来るよう要求しました。しかし、秋武を生かしておくつもりは、三影にも純子にも毛頭ありません。物語は 大団円に突入します。最後には、沼田も吉良も射殺され、秋武と張には、三影と純子の怨念のこもった復讐が加えられるのでした... |
| 三影は無言で光芒を当てていた。 「たすけて、くれ!」 ついに、秋武は、虎落笛に似た悲鳴を上げた。 「ただでは、許さん」 三影の声は低く、重かった。 「な、なんでも、する」 秋武は男の矜持を捨てた。埃だらけの床に両手をついた。体が一回り小さくなり、猿のようにみえた。 「いのちを買うためには何をすればよいのか、自分で考えたら、どうだ」 冷ややかに、三影は突き放した。 頭を床に擦りつけていたこの老醜にまみれた男が、たったさっきまでは闇の帝王として、純子を無残に犯していたのだ。暴力集団を背景に人妻を居竦め、したい放題に弄んできたのだ。いちど秋武に目をつけられた女はあらがうすべもなく、その凌辱に体を投げ出すしかないのだ。いま、一か八かの闘いに出た三影に、もし運がなかったなら、今頃は殺され、純子は永遠の奴隷となっていた。純子だけではなく、秋武は旅館の若妻をもおのれの黒い愉悦のために夫から奪ったはずだ。純子と若妻を並べて犯す妄想を描いていたにちがいない。いや、妄想はたちまち現実となるのだ。 「何をすればよいのか、教えてくれ」 秋武はふるえ声で訊いた。 「私が教えてやるわ」 それまで黙っていた純子が、口をきいた。声が昂ぶっていて、しかし、その昂ぶりの中になにか冷えびえと沈んだものが感じられた。 「ナイフを貸して」 純子は三影に手を出した。 三影は純子にナイフを渡した。 |
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